第80話 祇園夏祭り エッセイ

文字数 799文字

 2年前、北九州市八幡西区下上津役(しもこうじゃく)の熊野神社で、祇園夏祭りが18時から始まった。
 社殿を覗くと、白装束に鉢巻きをした男たちが見え、神主の祝詞が聴こえる。そのあと白髪の親父さんが引導し、神輿の担ぎ棒がそろりと入口から引っ張り出された。
 神霊の乗った神輿は3尺四方で紅白の太い綱をクロスに縛り固定している。担ぎ手は前後に3人ずつ横2列、先導には軽トラックに乗った子供4人が、大小の鼓と横笛で懐かしい伝統の音色を披露する。「ワッショイ、ワッショイ」交互に声を掛け、男たちが神輿を担ぎ御旅所を巡る。賽銭箱のリアカーも従い寄付を集め付いて行く。
 背中のマークは三本脚の八咫(やた)烏(がらす)である。神武天皇を和歌山熊野から柏原まで案内していた鳥だという。提灯を付けた神輿は街中を巡り、金山川傍の筑後屋酒店の前に到着した。金山川は帆柱山が源流で八幡西の街中を通り洞海湾へ流れる。川沿いは桜並木や花祭りと市民に愛されている。
 川幅9mで護岸の高さ4mだ。普段は20cmの浅瀬だが梅雨どきの水深は1mもある。コンクリートの階段と水際に足場スペースがある。神主のお祓いが済み、既に小さな祭壇が組まれた川の中に、担がれた神輿がゆっくりと入って行く。小雨が降る暗い流れに、担ぎ手は腹まで水に浸かる。神輿は徐々に動きが激しくなってくる。流れに逆らい白波を立て掻き分け上流へ移動し、また戻り、祭壇の周りを廻る。
 八咫烏の法被の男達は、提灯の火も消えた神輿を上下に持ち上げ左右にローリングさせ、手拍子にのり、神輿を担ぎ踊りまくる。紅白の綱に手を掛け、担ぎ棒に登る者もいる。上下に揺れる神輿に合わせ右拳を突き上げ「ワッショイ」と叫ぶ。最後に川へ飛び込む。交替し30分ほどこれを繰り返す。
 両岸の見物が傘を翳し、目を輝かせワッショイと声援を送る。自然界は不変だが、世代の子孫が祭りを繋ぎ、長く守り続けている。
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