第70話 原町 寄棟・倉造りの蕎麦や 唐津街道

文字数 877文字

 前庭にある冠木門から中庭に入った。建物の廊下のガラス戸は昔風の手の込んだ作りである。
「出入口」と小さな紙が貼ってある。戸を引き開け中に入ると、廊下に下駄箱があり、その先は、居間である。
 声を掛けても返事がない。居間に入り、左奥の部屋を覗くと、忙しそうな人の気配がする。「ごめんください」と声をかけると、三角巾を頭に被った若い女性が姿を表した。「廊下を行き、部屋でお待ちください」と言う。
 誰も居そうにない古民家の、ひっそりした廊下を歩き、障子を開けた。16畳程ある和室に15人位がそれぞれの机で、黙々と食べている。部屋の向こうにも廊下があり、ガラス越しに、室町風の庭が見える。一卓が空いていたので、そこへ座りこんだ。床の間には、有名人が来た証のように「三条実美の書」が飾ってある。
 メニューには「築150年以上の屋敷と、かつて造り酒屋の座敷。旧唐津街道の歴史を感じながら、ゆっくりとした時間・・・」とワードで書いてある。1650円の「そば定食」を注文した。
 蕎麦搔きの包み上げは、エビ入りでプリッとする。シメジご飯と漬物。まずは美味しい。
 次の大皿には、バランの葉を敷き、そばが載せてある。たれは、山芋・そば醤油・ゴマダレの3種である。味の変化が良い。連れはシメジご飯に大好きな山芋をかけ、ペロッと食べた。後で茶碗が空なのを見せた。蕎麦の量も十分である。食べた後、蕎麦湯を醤油だれに注ぎ飲む。さっぱりする。締めに、ぜんざいと抹茶がでる。
 家族連れや若いカップルが「またやって来よう」と感じる古式住宅の蕎麦屋である。宗像市原町163番地「たからい」は、お薦めである。店を出た先に駐車場があり6台車が止まっていた。リピーターはここに車を止めるのだと後で、知った。
 掲示板には「眞武酒造跡は、江戸末期に真武武蔵により創業された造り酒屋。最盛期には150町歩を所有する大地主であった。母屋は江戸末期に建設され寄棟・倉造りで、続き間座敷の格子の欄間や幅広の襖は当時の栄華を偲ぶ。現在の屋号”たからい”は当時の酒の銘柄である」と、表示されている。
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