第12話 小竹小休所 象も休憩 長崎街道 

文字数 949文字

 遠賀川堤防を飯塚方面に向かうと小竹の旧市街に入る。車中から右奥の方に見えた鳥
居が、何故か気になった。
 旧街道の手掛かりはないかと車を止め、付近を散歩した。車1台通れる道を挟み両側
に古い家々が連なっている。かつての時計屋、昔の商店や古い構えの木造住宅が軒を連
ね、先ほど見た石鳥居には天保年間と刻まれている。
 最近の神社は跡を継ぐ人もなく荒廃した所が多い。石段を上がると箒で落ち葉を掃い
ている男性がいた。「この前の道は長崎街道ですか」と尋ねると「そうですよ」と答えた。
 最近の70歳代の男性は、気力も体力もあり、生活費の心配はないが、人様と関わり
たいという人が多い。この男性もそうに違いない。熱心に説明してくれる。
 「木屋瀬宿を出て飯塚宿まで長い道程なので、小竹は小休所といい、一服した場所で
す。珍しい動物も通り住民は大喜びだったそうです」。
 1728年、徳川吉宗が象を買ったためジャカルタから船で長崎に着き、陸路を江戸
まで歩かせたという。宿場では象のための食糧と随行員のため必要なものを準備した。
吉宗が象を見て喜んだのは勿論、庶民も道中を歩く象を間近に見、驚き楽しんだに違い
ない。
 神主には見えないので「掃除はボランティアですか?」と尋ねると「もう15年続けて
います。子供の頃、チャンバラごっこした懐かしの遊び場です。定年後も立ち寄ってい
ました」。人に神社の由緒を尋ねられる事が多く、この地域の歴史も勉強したという。
 ある観光客から「神社は立派だけれど、草茫々ですね」と言われ、恥ずかしくなり、
それから神社の掃除を始めたと語る。熱心な説明のお礼に、遠賀川堤防の店で買った
パンを差し出すと気持ちよく受け取ってくれた。
 長崎街道の遺産見物では、地元の人の昔話を聞いていると、巨象を見るという歴史的
シーンに立ち会ったような錯覚を感じた。
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