なんにもな~い食堂

文字数 741文字

 ろくに食わしてもらえない、ろくでもない食堂ばかりでバカヤロウ! と思ったら、さらに猛烈に腹がへって、それから街をさまよったおれは、偶然見つけた「大盛あります!」という看板にも魅かれ、で、その定食屋ののれんをくぐった。
 そしてテーブルに付くと、メニューを隅から隅まで穴が開くほど見て、そして決めた!
 とんかつ定食!
 もはやおれは意地になっていたのだ。
(今度こそ、絶対食ってやるぞ!)
 この際値段などどうでも良い。
「ええと、とんかつ定食!」
「な~い」
「え? ない?」
(また食いそびれるのか?)

 おれの心の中で不安が台風のように発生し、それは徐々に勢力を強めていった。
 それからおれはもう一度、メニューを隅から隅まで見直した。
 そして延々と優柔不断の末、次善の案としてこれに決めた。
「鍋定食!」
「な~い」
「え? それもないの?」
 不安は極大に…
(くいそびれるくいそびれるくいそびれる…)
 そして今一度、メニューを穴が開くほど延々と…
「ちゃんこ定食」
「な~い」
「え?」
 そしてまた延々と優柔不断…
「じゃ、ラーメン」
「な~い」
「え? それもないの?」
 おれはあきれ果てて力が抜け、おれの不安は熱帯低気圧に変わり、それからおれは言った。
「じゃおれ、帰る!」
「あらあらあなた、ちょっと待っときんしゃい。あなたが優柔不断ばしとんしゃる間にもう出来ましたたい。わたしゃがばい手際のよかとですよ」
「手際?」
「はい。とんかつ定食と鍋定食とちゃんこ定食とラーメン!」
「え? さっきおばさん、全部ないって…」
「ああ、そいけん佐賀んにきじゃぁなた、『はい』て言うとば『な~い』て言うとさい」
「な~い?」
「そいばってんなた、がばい腹の減っとんさったとやね。そがん思うて、全部、特別の大盛りにしときましたけんが」
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