レスキュー隊

文字数 1,296文字

 ここからはちょっと怖めの作品を並べます。
 以下、作品。
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「ママーッ、このジュース、飲んでいい?」
「だめよ。今日はもう二本目でしょう」
 明夫君は冷蔵庫から缶入りのグレープジュースを出し、飲もうとしていた。

「ちがうよ、一本目だよ。今朝飲んでいたのは、ありさちゃんだよ」
 だけど本当は、明夫君はこの日、二本目のジュースだった。
 そのとき明夫君は、嘘をついていたのだ!

「それじゃあ、一本だけよ。これからママは、お出掛けするからね。宮公タウンでお買い物して、それから、カルチャーセンターでパンフラワーをしてくるわ。夕方には帰るから。お留守番頼んだわよ。それから、ありさちゃんと喧嘩しないのよ。ほらほらまたズボンからシャツが出てる。それから…」
「わかった、わかった。いつもママは、もうごちゃごちゃうるさいんだから!」

 プシュ! 
 プルリングを引いて缶を開ける。
 シュワァーっと炭酸の音。
 おいしそうなグレープの匂い。

 一口飲む。
 おいしいグレープの味が、口の中に広がる。
 
 それから明夫君はいたずらに、缶の中の空気をちゅぱちゅぱと吸い込んだ。
 すると、缶の中の気圧が一気に下がった。
 悲劇はそのときに起こったのだ。

 あろうことか、缶の中に昭夫君の舌が吸い込まれてしまったのだ。
 それからいくら引っ張っても、昭夫君の舌は抜けなかった。
 その間も舌の先には、おいしいグレープジュースの味が感じられた。
 だけどそんなことはどうでも良い。
 とにかく舌を抜かなければ!

 だけど不幸にも、昭夫君の舌の先はみるみるうちに腫れ上がっていった。
 そして舌が腫れれば腫れるほど、ますます抜けなくなる。
 そしてもう、どんなことをしても、舌は抜けそうになかった。

 しかもこのまま夕方まで、ママは帰ってこない!
 もしかするとそれまでには、昭夫君の舌は腐ってしまうかも知れない…
 明夫君は絶望的な気持ちになった。
 
 と、そのとき、明夫君はあるテレビ番組の事を思い出した。
 それは「世界見え見えテレビ」だった。
 昭夫君は考えた。

(その番組で僕と同じようになった子がいたはずだ。そのときその子は、たしか、レスキュー隊に助けられていたっけ…)

 それから明夫君はジュースの缶を口にぶらさげて、七歳の妹の、ありさちゃんのところへ行った。
 ありさちゃんは部屋で宿題をしていた。

 それで舌が抜けず、しゃべることの出来ない明夫君は、ありさちゃんにも読めるように、紙に大きな字を書いた。

 したがぬけない。たすけてほしい。
 でんわで、れすきゅうたいを、よんでおくれ!
 
 それでありさちゃんは、早速電話を掛けにいった。
 電話のところでは、ありさちゃんの声がしていた。

「…そうなの。お兄ちゃんがね、舌を抜いて欲しいんだって」

 だけどありさちゃんは、一体どこに電話を掛けたのやら。
 明夫君を助けに駈けつけて来たのは、レスキュー隊ではなく、ペンチを持った、
こわ~いこわ~い閻魔大王だった。

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