画期的なゴルフトーナメント必勝法
文字数 2,091文字
彼はうだつのあがらないトーナメントプロ。
このところずっと予選落ち。
賞金総額も知れたもの。
バイトもやってかろうじて食っていた。
でもたまには飲み屋で息抜きでも…
その飲み屋のカウンターで、からしれんこんをつまみにビールを飲んでいると、彼の隣に胡散臭い男が座った。
しかも胡散臭いだけではなかった。鳥臭いのだ。
その臭いにたまらず彼は言った。
「あなた、鳥、いっぱい飼っているでしょう。いわゆる多頭飼いってやつ!」
「よくわかりましたねえ」
「よくわかるもなにもあなた、その臭い!」
「そういうことはどうでもよろしい。実は耳よりな話があるのですよ。ここじゃまずいのて、ちょっとよろしいですか?」
「いきなりちょっとよろしいですかって、あなたも変な人だなぁ。僕をどこへ連れて行こうってんですか?」
「トーナメントで勝ちたいんでしょう?」
「トーナメント? そりゃまあ」
「だったら私の家へいらっしゃい」
「あなたの家へ?」
「そうです」
「何のために?」
「トーナメントで勝ちたいでしょう?」
「そりゃまあ」
「それじゃあいらっしゃい。鳥小屋を見せてあげます」
「鳥小屋?」
「理由はともあれ、とにかく私の家へいらっしゃい」
「何で!」
「来れば分かります!」
「来ればわかるって…、今からですか?」
「そう! 今から…、いやいや、奴らは鳥目だった。いつでもいいから、とにかく昼間、いらっしゃい」
それから胡散臭くて鳥臭い男から名刺をもらった彼は、その後、数回トーナメントで豪快に予選落ちした。
そして彼自身も豪快に落ち込んでいたある日、その胡散臭くて鳥くさい男の家を訪ねることにした。
こんな男の家へ行ってトーナメントに勝てるようになるとは、とても思えなかったけれど、彼は藁をも掴む思いだった上に、なぜかその日、彼は朝から豪快に暇だったのだ。
さて、思い切り田舎にあったその男の家の庭には、朝日に照らされた鳥小屋がずらり!
それを見た彼は、少しだけ前向きになっていた。
「おはようございます♪」
「やあ、いらっしゃい!」
「うわ! すごい臭い」
「そりゃまあ、これだけ鳥飼っていれば…」
「ところで僕のトーナメントとあなたの鳥と、どんな関係があるのですか? で、こいつらカラスですね」
「カラスは大変賢いのです。とりわけこの仔!」
そう言うと男は一羽のカラスを小屋から出し、バケツに入れてあった十個くらいのゴルフボールをがらがらと地面に転がした。
それを見たカラスは、それらのボールのうち一個をくわえてどこかへと飛んでいった。
そしてボールを近くの林の中へぽとり。
それから舞い戻ってくると次のボールをくわえて飛んで行き、今度は近くの池にどぼん。
また舞い戻って次のボールをくわえ、砂場にドサッ!
とにかくそういう事を繰り返し、最後に残った一個だけは臭いを嗅ぐような仕草をしたが、そのままにしておいて、最後に男の肩に乗って「カ~」と鳴いた。
「賢いですね」
「この訓練をするのに大変な苦労をしたのです」
「へぇ~」
「それで最後に残ったボールですが、これには特殊な薬液が塗ってあります。そしてこの薬液が塗ってあるボールだけは、この仔は処理をしません」
「処理しない?」
「で、あなたはこのボールでトーナメントに出場なさい。他のプレーヤーのボールは、みんなこの仔が処理します」
「処理?」
「さっき見たでしょう。池ぽちゃ。林の中。砂場…」
「処理…」
それから彼は男から、そのボールに塗る薬液を大きな声ではいえないような高額の代金で買った。
ちなみにカラスは男が飼育を続けてくれるらしかった。
それからというもの、彼は出場するトーナメントで、ことごとく優勝した。
彼のスコアは「15オーバー」とか、あまり褒められたものではなかったが、何たって他のゴルファーのスコアときたら…
かくして彼は賞金ランキングでもトップになってしまった。
今や彼は、押しも押されもせぬ「トッププロ」!
スコアはさておいて。
しかしある頃から、他のカラスが同じようなことをやり始めたのだ。
時には彼のボールも池ぽちゃされることがあった。
しかも、そのようなカラスは日に日に増えていった。
(そういえばあの人、カラスをいっぱい飼っていたよなぁ…)
彼はぼんやりとそんなことを考えた。
だけどぼんやりと考えるどころではなかった。
いつしかトーナメントともなれば、ゴルフ場の上空を埋め尽くすようにカラスの大群が飛び回り、おのおのいろんなボールをくわえては、池とか林とかに投げ込むようになったのだ。
もう、ゴルフどころではない!
もちろん、彼のボールもたびたびカラスに「処理」されるようになってしまっていたのだ。
これはある意味「イコールコンディション」になったとも言える。
そしてそうなると、彼は再び相対的にうだつの上がらないプロゴルファーに逆戻りだ。
そんなある日のこと。
たまたま彼が出場してないトーナメントがあり、最近のカラスの大群のことを相談にと、彼は男の鳥小屋を訪ねた。
「お久しぶりです。おや、カラスたち、今日はいませんねえ」
「今日はトーナメントですから、出払っとりますわ」
このところずっと予選落ち。
賞金総額も知れたもの。
バイトもやってかろうじて食っていた。
でもたまには飲み屋で息抜きでも…
その飲み屋のカウンターで、からしれんこんをつまみにビールを飲んでいると、彼の隣に胡散臭い男が座った。
しかも胡散臭いだけではなかった。鳥臭いのだ。
その臭いにたまらず彼は言った。
「あなた、鳥、いっぱい飼っているでしょう。いわゆる多頭飼いってやつ!」
「よくわかりましたねえ」
「よくわかるもなにもあなた、その臭い!」
「そういうことはどうでもよろしい。実は耳よりな話があるのですよ。ここじゃまずいのて、ちょっとよろしいですか?」
「いきなりちょっとよろしいですかって、あなたも変な人だなぁ。僕をどこへ連れて行こうってんですか?」
「トーナメントで勝ちたいんでしょう?」
「トーナメント? そりゃまあ」
「だったら私の家へいらっしゃい」
「あなたの家へ?」
「そうです」
「何のために?」
「トーナメントで勝ちたいでしょう?」
「そりゃまあ」
「それじゃあいらっしゃい。鳥小屋を見せてあげます」
「鳥小屋?」
「理由はともあれ、とにかく私の家へいらっしゃい」
「何で!」
「来れば分かります!」
「来ればわかるって…、今からですか?」
「そう! 今から…、いやいや、奴らは鳥目だった。いつでもいいから、とにかく昼間、いらっしゃい」
それから胡散臭くて鳥臭い男から名刺をもらった彼は、その後、数回トーナメントで豪快に予選落ちした。
そして彼自身も豪快に落ち込んでいたある日、その胡散臭くて鳥くさい男の家を訪ねることにした。
こんな男の家へ行ってトーナメントに勝てるようになるとは、とても思えなかったけれど、彼は藁をも掴む思いだった上に、なぜかその日、彼は朝から豪快に暇だったのだ。
さて、思い切り田舎にあったその男の家の庭には、朝日に照らされた鳥小屋がずらり!
それを見た彼は、少しだけ前向きになっていた。
「おはようございます♪」
「やあ、いらっしゃい!」
「うわ! すごい臭い」
「そりゃまあ、これだけ鳥飼っていれば…」
「ところで僕のトーナメントとあなたの鳥と、どんな関係があるのですか? で、こいつらカラスですね」
「カラスは大変賢いのです。とりわけこの仔!」
そう言うと男は一羽のカラスを小屋から出し、バケツに入れてあった十個くらいのゴルフボールをがらがらと地面に転がした。
それを見たカラスは、それらのボールのうち一個をくわえてどこかへと飛んでいった。
そしてボールを近くの林の中へぽとり。
それから舞い戻ってくると次のボールをくわえて飛んで行き、今度は近くの池にどぼん。
また舞い戻って次のボールをくわえ、砂場にドサッ!
とにかくそういう事を繰り返し、最後に残った一個だけは臭いを嗅ぐような仕草をしたが、そのままにしておいて、最後に男の肩に乗って「カ~」と鳴いた。
「賢いですね」
「この訓練をするのに大変な苦労をしたのです」
「へぇ~」
「それで最後に残ったボールですが、これには特殊な薬液が塗ってあります。そしてこの薬液が塗ってあるボールだけは、この仔は処理をしません」
「処理しない?」
「で、あなたはこのボールでトーナメントに出場なさい。他のプレーヤーのボールは、みんなこの仔が処理します」
「処理?」
「さっき見たでしょう。池ぽちゃ。林の中。砂場…」
「処理…」
それから彼は男から、そのボールに塗る薬液を大きな声ではいえないような高額の代金で買った。
ちなみにカラスは男が飼育を続けてくれるらしかった。
それからというもの、彼は出場するトーナメントで、ことごとく優勝した。
彼のスコアは「15オーバー」とか、あまり褒められたものではなかったが、何たって他のゴルファーのスコアときたら…
かくして彼は賞金ランキングでもトップになってしまった。
今や彼は、押しも押されもせぬ「トッププロ」!
スコアはさておいて。
しかしある頃から、他のカラスが同じようなことをやり始めたのだ。
時には彼のボールも池ぽちゃされることがあった。
しかも、そのようなカラスは日に日に増えていった。
(そういえばあの人、カラスをいっぱい飼っていたよなぁ…)
彼はぼんやりとそんなことを考えた。
だけどぼんやりと考えるどころではなかった。
いつしかトーナメントともなれば、ゴルフ場の上空を埋め尽くすようにカラスの大群が飛び回り、おのおのいろんなボールをくわえては、池とか林とかに投げ込むようになったのだ。
もう、ゴルフどころではない!
もちろん、彼のボールもたびたびカラスに「処理」されるようになってしまっていたのだ。
これはある意味「イコールコンディション」になったとも言える。
そしてそうなると、彼は再び相対的にうだつの上がらないプロゴルファーに逆戻りだ。
そんなある日のこと。
たまたま彼が出場してないトーナメントがあり、最近のカラスの大群のことを相談にと、彼は男の鳥小屋を訪ねた。
「お久しぶりです。おや、カラスたち、今日はいませんねえ」
「今日はトーナメントですから、出払っとりますわ」