地球の裏側への旅

文字数 896文字

 僕が子供の頃に住んでいた家は高台にあった。
 高台といっても、せいぜい三十メートルくらいの高さだったと思う。
 だけどそこは見晴らしが良かった。
 僕の住んでいた街の風景が良く見えた。
 
 そんなある日、ふと僕は「地球の向こう側」へ行ってみたいと思った。
 だから地球が「丸い」ということも、僕は知っていたのだと思う。そしてもう理由は忘れたけれど、多分そこはブラジルだろうと、何となく僕は、そう思っていた。
 
 そしてある日曜日、僕は「地球の向こうが側」へ行く旅を始めることにした。
 用意したのはスコップが一つ。
 
 穴を掘るのだ。

 とにかく穴を掘り続け、どんどん掘り、するといつかはきっと、地球の向こう側へ行ける!
 僕はそう信じていたんだ。
 地球は丸いのだから…
 それで僕はその日、朝からせっせと穴を掘った。

 掘ったのは自分の家の庭の片隅。
 母が「あんたなんばしよるとね」と言っても、僕は「地球の向こう側へ行く」と言い、それからも無心で穴を掘り続けた。

 そして夕方になった。
 穴は僕の背丈程になった。
 それにしても僕は頑張った!
 僕は僕の背丈程の穴を掘ったのだから。

 このペースで掘れば、きっといつか地球の向こう側へ着き、穴から出たとき、きっとそこでは、「リオのカーニバル」をやっている…
 僕はそう信じていた。

 それから華やかなお祭りの様子が頭に浮かんだ。
 お店なんかもいっぱいあって、お菓子なんかもいっぱい買って…、僕の夢は膨らんだ。
 
 それから僕は穴から出た。
 夕焼けがきれいだった。
 今でも覚えている。
 そして僕は…、僕の家は高台にあったから、
 それで夕焼けに照らされたその街を見下ろした。

 僕は充実感に満ちていた。
(今度の日曜も掘ろう!)
 そう思った時、僕はあることに気付いた。

 高台から見下ろした街は、三十メートルも下にある。
 僕は今日一日で、僕の背丈程掘ったのだけど、三十メートル掘るのに一体何日掛かるんだ? 
 どうして僕は三十メートルも下にある、あそこの街の辺りから掘り始めなかったのだろう、と。

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