一日一話(YouTube配信中)

文字数 769文字

 昔私は、ある悪魔と、ある契約を交わしてしまいました。
 しかしその契約のおかげで、現在私はある程度の地位と名誉を手に入れ、とくに贅沢をしなければ、暮らすのに不自由のない収入も得ています。
 そしてその契約では、悪魔によって私にその地位を与えられたことに対する対価として、一日一話、ショートショートを書かなければいけないということになっているのです。
 ショートショートと一口にといっても、それなりに大変なのです。
 まずネタを思い付き、取っ掛かりを書き、設定された状況の描写へと書き進め、それから尾ひれを付けて誇大妄想しイメージを膨らませ、意外な展開へと書き進め、そして最後に待ち受けているのが恐怖の「オチ」です。
 オチ…
 これなくしてショートショートは完成しません。

 しかしある日、とうとう私はネタ切れになってしまいました。
 考えても考えても、何も思い浮かびません。
 それで街に出て買い物をしたり、喫茶店に入ったり、映画を見たり本を読んだり、はたまた電車に乗っていろんな人々の話を、得意の地獄耳で盗み聞きしたり…
 だけど何をやっても、どうしてもこうしても、何が何でもその日は全く何も思い浮かばなかったのです。
 私は思い悩みました。
 途方にくれました。
(このままでは、きっと悪魔に殺される…)
 そして恐怖が私を襲いました。
 実は私は、その悪魔との契約で、たったの一日でもショートショートを書かなければ、本当に殺されるのです。
 それで思い詰めた私は、何となく近くの川の袂へと向かいました。
 前日から降った雨で、その川は結構な濁流でした。
(ショートショートが書けない。悪魔に殺される。それならいっそ、この身を濁流へ…)
 だけどそう思ったそのとき、突然私に、ある素晴らしい考えが浮かんだのです。
 そういう訳で、私はこのショートショートを書いたのです。

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