N先生への贈り物

文字数 1,318文字

 おれはN先生の胃潰瘍を治療し、それから、タイム人力車で先生をご自宅まで送り返した。
 だけどおれがタイム人力車で二一世紀へ戻り、地下の研究室へ帰ったとき、どうしておれはN先生にこれを教えてあげなかったのかと悔んだ。
 そこでおれは研究室の一角を仕切り、四畳半くらいのスペースを作った。きちんと壁を作る必要もあったので大工さんに頼んだ。内装も大正時代を思わせる落ち着いた佇まいの和室だ。そしてむくの木で作った机。
 そしてN先生に時々この書斎に来てもらい、こちらでも仕事をしてもらうことにしたのだ。まあそれはおれの気まぐれの類ではあるのだが。
 ともあれ、おれはその書斎の机の上にとある機械を置いた。
 おれが以前使っていたずいぶん古い型だが、N先生にはちょうどいいと思ったから、これにしたのだ。
 久しぶりに電源を入れると、きちんと作動したので一安心。
 おっと、もうひとつ。
 N先生は猫がお好きだったらしいので、おれと友達のブチ猫を呼んできて(雄だ)そいつを机の横にはべらせた。

 それからおれは大正風のいでたちに着替え、タイム人力車でN先生の自宅の玄関へと向かった。
「ごめんください」
「いらっしゃいませ」
「あの…、先生は御在宅でしょうか?」
「主人ならおりますがどちら様でしょう?」
「ええと、名乗るほどのものでは御座いませんが、ええ、先日先生の胃袋を修繕させていただいた者とお伝えいただければ…」
「主人の胃袋を修繕なすった?」
「左様で御座います」
「よくわかりませんが、よくわかりました。少々お待ちください」
 しばらくしてN先生が風流な着流し姿で出てきた。
「やあ、あなたか。この前は随分世話になりましたな。あれから快調に筆が進んでいますよ」
「そうですか、それはよかったです。ところで先生、今日は先生にお見せしたいものが御座いまして」
「ほう、何ですか?」
「実は、先生にお見せしたいのは書斎です」
「書斎ですか」
「先生のために私の研究室の一角に書斎をお作りしました。たまには違った場所でお書きになるのも気分転換になるんじゃないかと思いまして」
「そうですか。それは面白そうですな」
「それじゃ早速、人力車へ」
 そしてタイム人力車作動…

「どうぞお入り下さい」
「いやいや、なかなか閑静な書斎ですな」
「先生のお好みに合わせて作らせていただいたのですが、お気に召しましたでしょうか?」
「なかなか素晴らしい。時にこういう所で書くのも、悪くありませんね」
「それはよかった。それではこの机の前にお座り下さい」
「うんうん。なかなか良い感じの毛並みですな」
「私が飼っている猫です。ブチ猫のミッキーと申します。ミッキーマウスに似ているでしょ?」
「ミッキーマウス?」



 そういってN先生は一方の手でミッキーを撫でながら、おれが出した茶を一口飲んだ。
 そしてミッキーから手を放し、机の上を指さしながら言った。
「ところで…ああ、この机の上に置いてある、文字が映っており、それに手前にはアルファベットやら数字やらがさいころのように並んでおる、あ~、この開いた本を横に置いたような物体は何ですかな?」
「これですか。これはノートパソコンといいまして、これで小説が書けます。早速使い方をご説明…」

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