異世界行って無双したい人の話(甲)

文字数 1,169文字

「いらっしゃいませ」
「あの、ここで、レベルの低い異世界を紹介してもらえると聞いたんすけど、僕そこで無双したいんすけど」
「異世界? ああ、星ですね。どうも最近の若い人たちは異世界異世界と言われて訳が分からん」
「星?」
「まあ異世界と思って頂いて構いませんよ。いろんなことのレベルの低い星がありまして、そこへご案内出来ますよ。そこで無双されたらよろしい」
「あの、素朴な疑問だけど、ひとつ教えてもらっていいすか?」
「どうぞ」
「どうやって異世界…、ええと、そんな星を案内出来るようになったんすか?」
「ああ、そういうことですか。実は私は以前旅行会社に勤めていまして、そのときのつてで、悪魔とか魔人なんかにも顔が利くのです。まあ星…、つまり異世界へとご案内するのも、旅行をご提供するのも、似たようなものですわ」
「そういうもんなんすか」
「それで、どんな星をご希望ですか?」
「ええと、じゃ僕、プロ野球選手になりたいかな。大リーグの!」
「それなら、野球のレベルの低い星というのがございます」
「へぇ~、で、そこでは大リーグはどのくらいのレベル?」
「だいたい夏の甲子園地区予選レベルです」
「げ! そんなレベル高いの? 大リーグが草野球の、ダントツ弱いチームくらいとかならないんすか?」
「いくらなんでも、そこまでレベルは下がりませんよ」
「それじゃええと、そうだ! 数学者になりたいかな」
「それなら数学とんちんかん星というのがあります。今ならたしか、立方根が理解出来れば、その星のハーバート大あたりで教授になれると思います」
「り…、リッポウコン? う~ん。た…、足し算くらいじゃだめなんすか?」
「足し算ですか。その程度ならその星でも普通の大学生ですね。そうだ! 音痴星は? とてつもなく音痴じゃなければ、十分プロの歌手としてやっていけますよ」
「あ、僕、思い切りとてつもなく音痴ですけど♪」
「ああそうですか。それじゃ売れない小説家星は? そこならアルファポリス底辺でも、歴史的文豪といえるレベルですよ」
「僕、小説なんて一行も書けませ~ん!」
「そうですか。はぁ~。じゃ料理下手くそ星は? カップラーメンが作れたら、そこではもう一流のシェフですよ」
「僕、恐くてお湯沸かせませ~ん」
「怖くてお湯沸かせない? はぁ~、そうですか。困りましたね。ところであなた、何か特技はないのですか?」
「特技? ええと、ほとんど毎日食っちゃ寝とかネトゲとかパチで負けるとかだから…」
「ほとんど食っちゃ寝とかネトゲとかパチ? はぁ~、そんなもんですか。困ったなぁ。だけど待てよ、え~と、それだったらこの星は? そこでならあなたでも、何かで無双出来るかも知れませんよ」
「本当すか? それっていったい、何ていう星すか?」
「無能星です」

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