タイムキャンプ騒動

文字数 5,138文字

 おれは愛宕胃腸科という医院を開業する傍ら、そこの地下で必死こいてタイムマシンの研究を数十年続け、数年前、ついに開発に成功した。
 それでまずは大正時代の文豪に逢いに行き、次に19世紀ドイツの音楽の巨匠に逢いにも行った。
 で、その話は他所で書いた。
 で、今度は仲間でキャンプにでも行き、釣りでもやろうということになり、それでタイム蒸気自動車に魔改造されたタイム人力車を、今度はタイムキャンピングカーに魔々改造し、それから知り合いの精神科医と獣医の合計3人(変体3人組)で出かけようといういうことになったのだ。
 そこで、「キャンプが出来て釣りが出来る名所なんたらかんたらベスト100」とかいう感じの雑誌で、ごくごくアバウトに適当なところを選び、それにどうせなら水も空気もきれいな、少し昔の時代の方がいいなと軽薄に考え、そういういきさつでちゃらちゃらと場所・時代を選び、そしてみんなでタイムキャンピングカーに乗り込んで出発!

 だれど、何故かタイムキャンピングカーの「タイムマシン/どこでもドア機能」が同時にバグったようだった。
 おれらがタイムキャンピングカーを降りると、そこにはうっそうとシダ植物が生え、はたまたごつごつした岩がゴロゴロし、そして遠くでドカンと火山が噴火し…
 これは何という光景?
 そうだ! 
 どうやらジュラ紀へ来てしまった。
 何だか恐竜でも出てきそうな…
 だけどトリケラトプスなんか可愛いかな♪ とか、それでもみんなでのんきに思っていたら、思い切りベロキラプトルが出てきた。

 ガオ~~~!

 ちなみにベロキラプトルって、映画「ジュラシックパーク」にも出てくる、体長1.7mくらいの、極めて獰猛な肉食恐竜。
 で、案の定、やっぱりそいつが襲ってきた。

 ガオ~~~!!

 それで、もちろんみんなびびってタイムキャンピングカーに逃げ込んだが、タイム人力車ベースのタイム蒸気自動車ベースの、つまり魔々改造のタイムキャンピングカーで、結構アバウトな、はっきり言ってはりぼてちっくな作りだった。
 そしてそのベロキラプトルは太い足の鋭い爪で、タイムキャンピングカーの、はりぼてのドンガラのぺらぺら横っ腹を、どかんどかんと蹴り始めたのだ。
 多分このままじゃ蹴破られてしまいそう。
 すると中へ入ってきて、ガオ~~っと…

 で、「やばい! ずらがるぞ!」ということになり、それでおれがタイムキャンピングカーの「タイムマシン/どこでもドア機能」を起動しようとしたら思い切りエラーが出てしまい、豪快に起動しない。
 ということは、このベロキラプトルがタイムキャンピングカーのどんがらを蹴破ったら、おれたち一巻の終わり?
 だけどその日、牛の往診からの帰りにおれらに合流した獣医は、幸いなことに、往診カバンの中に麻酔薬と注射器を入れていた。
 それで精神科医がキャンピングカーの一つの窓を少し開け、たまたま持っていたキザな赤いハンカチを、心理学的効果を狙い、これを巧みにひらひらとさせると、案の定、ベロキラプトルはそれに興味を示し、それから獣医がもう一つの窓を少し空け、そしてそこから、「牛一頭分くらいだんべえ」と、アバウトに牛一頭分の麻酔薬を入れた注射器をさし出し、すかさずベロキラプトルの横っ腹にぶすりと…
 そしてしばらくすると、ベロキラプトルはふらふらしてからバタンと倒れ、すやすやと眠ってしまった。
 だけどよく観察すると呼吸をしていない!
「やばい! 麻酔が効きすぎたか?」
 獣医はそう言うとタイムキャンピングカーのドアを開け、倒れているベロキラプトルに駆け寄り、必死に心肺蘇生を始めた。
 もちろん我々も代わる代わる人工呼吸、心マッサージをやったのだが、ベロキラプトルは見る見るチアノーゼが出て、瞳孔も散大し、それで一応内科医のおれが、キャンプ用のトーチで、そのぎょろりとした目に光を当て、瞳孔反射のないことを確認し、それで死亡確認とあいなった。

 医療事故といえば医療事故ではある。
 麻酔薬が効きすぎたのだから。
 だけどこの状況で獣医を責めるのも酷だろう。
 現代人の中で、ベロキラプトルの麻酔の至適量を知る者など、いようはずもない。
(そんな者がいてたまるものか!)
 それにもし、獣医が麻酔をかけなかったら、我々はベロキラプトルに襲われ、殺されていただろう。
 いずれにしてもこのような事態は、避けようがなかったのではなかろうか…
 しかし考えて見るとこの時代、ベロキラプトルはまさに弱肉強食の世界に住んでいるわけだ。
 弱肉強食…
 食うか食われるか!
 ところで殺生をやるとき、その唯一の「許される」理由は、その殺した生き物を「食べてあげる」ことである、と、おれは考える。
 みなさんだって、きっとそうでしょう?
 弱肉強食とはまさにそういうものなのである。
 ところでスポーツフィッシングとか称して、食べる気もないのに魚釣りを「スポーツ」として楽しむ…
 おれはそういうものが大っ嫌いだ!
 殺生したなら食え!
 それだけが命を奪った者が許される条件だ!
 ああ、これ、おれの個人的偏見に満ちた、バイアスのかかりまくった個人的見解ね。
 ああそれと、殺人してその人を食え…、といっている訳ではありませんからね。
 あくまでも動物とかお魚の話ですよ。

 とまあそういう訳で、アクシデントとはいえ、我々が殺してしまったベロキラプトルを、我々は食べることにしたのだ。
 そもそもキャンプに来ていた訳だし、道具はそろっていた。
 それに我々はキャンプとフィッシングで、しこたま釣って飲んで食って…と、目論んでいた訳で、とりあえず天に召されたベロキラプトルの肉体を解体し、その自然の恵みに感謝しながら…
 さて、ところでタイムキャンピングカーの「タイムマシン/どこでもドア機能」だが、一向に起動しなかった。
 それは次の日も、そのまた次の…、いやいや、その三日目、忽然とその機能が復旧した。

 やったぞ!
 それで帰ることになった。
 ところで、キャンプに行くからと豪快に腹を減らした大飯食いの3人組。
 二日半で食べつくしていたのだ。
 そして場所が場所だけに、立ち小便はおろか、のぐそだってし放題だったにもかかわらず、だけどベロキラプトルの肉には便秘になるような成分があったのか、どういう訳か、我々は豪快に便秘になった。
 そういう訳で3人ともすっきりしない腹を抱え、タイムキャンピングカーに乗り込み、現代のおれの愛宕胃腸科医院の地下室へと向かうはずが、やはり「タイムマシン/どこでもドア機能」に誤差が生じていたためか、タイムキャンピングカーがたどり着いたのは、とある街角だった。

 そしてそこにはしゃれた公衆トイレがあった。
 しかも何故かおれたちは突然もようしてきた。
 はっきり言って、うんちがしたくなったのだ。
(ここで作者注)
 実はこの公衆トイレには少々、いやいや、とんでもないいわくがあった。
 で、この公衆トイレについては他の話で思い切り書いたのだが、読んでない人の為に、ここに最初の作品を丸々コピペしておく。
 以下、作品

 街のとある一角に、その公衆トイレがあった。
 公共の施設、という感じでもないが、入り口には(いつでもご利用下さい♪)と書いてあり、結構清潔な感じで、人通りの多いところでもあり、毎日結構な数の人々がそこを利用していた。
 その公衆トイレと建物がつながって、その隣にはレストランがあった。
 トイレの隣にレストラン? 
 だけどその公衆トイレは結構清潔だし、それに考えてみれば、レストランの中にだってトイレがあるのが普通だし、だからそういう状況に全然悪い印象はない。
 ちなみにそのレストランには、何故かトイレはなかった。
 でも、隣に公衆トイレがあるから全然問題ない。
 というか、その公衆トイレはレストランの経営者が作ったのだろうというのが、もっぱらのうわさだった。
 人々の便益に供すると同時に、すっきりしたところで「お、レストランだ。食事でもしていくか」という感じで、レストランに入る人もちょくちょくいるようだった。
 つまりそういった効果を狙って、公衆トイレとレストランを「コラボ」させているという解釈も成り立つではないだろうか。

 そんなある日、私はそのレストランと公衆トイレの経営者に話を聞く機会があった。
 いかにも発明家という感じの少しだけ、というか、かなり異様な感じの人だった。
「私が公衆トイレとレストランを併設したのは、ある機械を発明したからです。この機械は『物質時空逆走機』というものです。この機械の入り口に、ある物質を入れ、機械を作動させると、その物質の周囲の時空が逆走し、そうするとつまり、あ~、平たく言えば、その物質において時が逆に流れ、そうすると、ぶっちゃけ、その物質は数日前の姿に戻り、機械の反対側にある出口から出てくるのです。で、トイレにやって来た人々が『放出』した物質を機械の入り口に入れると、それは数日前の姿に戻って、機械の出口から出てくるわけです。それが何に戻って出てくるかって? お分かりですね。だから私は公衆トイレにレストランを併設することにしたのですよ。いひひひひ」
 拙著「公衆トイレの隣にあるレストラン」よりコピペ

 それで話の続き。
 とまあそういう訳で、便秘の腹を抱えたおれたちは、どういう訳か突然もようしてきたのだ。
 実はこのトイレ及びその周囲の空間に何らかの6次元的な歪みがあり、その作用で便意をもようしてきたというのが宇宙物理学会の結論らしいが、そういう宇宙物理学的考察はこの際まあどうでもいい。
 とにかくおれたちは迷うことなくそのトイレに駆け込んだ。
 そしてぶりぶりぶり(きったね~~)

 当然その数分後、そのレストランの店主が「わ~~~~~~」と叫び声を上げながら店から飛び出し、それから、
「にににににに…、肉食恐竜だぁぁぁぁ。ぎゃ~~~~~~~~~」と吼えた。

 それで、何となく事情を察知したおれたちは飛んで行った。
 要するに『物質時空逆走機』の作用でベロキラプトルが豪快に復活したのだ。
 そしてとりあえずおれがレストランのドアを閉め、それから店主があわててカギを閉めた。
 そしてこのレストランの入り口のドアは意外と丈夫だった(いわゆる過剰品質)のが幸いだった。
 ベロキラプトルは閉じ込められ、しかもそのときは開店直前で客もいなかったので、犠牲者が一人も出なかったのも幸いだった。
 しかも幸いと言えば、獣医の引き起こした(というには気の毒だが)麻酔事故で命を落としたはずのベロキラプトルも、『物質時空逆走機』の作用で幸い復活できた。
 ところで、実はおれは、この店主のことは以前から良く知っていた。
 そもそも店主が発明したところの、公衆トイレ~レストランコンビネーションの中核的機械であるところの『物質時空逆走機』とは、タイムマシンの如き機能を持つ機械であり、従ってタイム人力車等々を発明したおれと、その店主が懇意であったとしても、いささかも不思議ではないではないか。
 しかしそういうことはどうでもよい。
 それで、その後であるが、ベロキラプトルはどうなったか!

 それで数日後。
 ともあれ極めて獰猛であるが故、ねんねしてもらわなければどうにもならん。
 それで獣医が入念に考察した結果、麻酔薬は体重3.5キロくらいの猫一匹分で十分ではないかとのことになり、精神科医が件の赤いハンカチをレストランの窓からちらちらさせ、気を引いたところで獣医がさっと別の窓から猫一匹分の麻酔薬をぶすりと投与すると、15分ほどののち、ベロキラプトルは豪快にねんねした。
 それからレストランの中に入り、前日おれが愛宕胃腸科の地下室に戻り速攻で作った、極めて丈夫なケブラーという繊維で作った巨大な「洗濯袋」にベロキラプトルを入れ、それをタイムキャンピングカーにみんなで怪力で乗せ、しかもこの前間違って行ってしまったジュラ紀の件の場所・時間も「タイムマシン/どこでもドア機能」の動作履歴でばっちり判明していたので、そのままタイムキャンピングカーでそこへ送り届け、それからケブラー製の洗濯袋ごとベロキラプトルをタイムキャンピングカーからみんなで怪力で降ろし、洗濯袋の強靭なジッパーを開け、しばらく放置するとベロキラプトルは薄目を開けた。
 それでみんなでタイムキャンピングカーに戻り、みんなで窓から遠めに見ていると、ベロキラプトルはのそりと起き上がり、岩場をよたよたと歩き始め、それからシダ植物の茂みの中へと消えていった。
 それを見ながらおれは、心の中でつぶやいた。
(ベロちゃんごめんよ。もう殺生なんかやんないよ。約束するよ)
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