ストーカー (YouTube配信中)

文字数 1,047文字

 彼は日夜革新的な研究を行い、次々とそれを論文に仕上げ、その分野では世界有数のジャーナルに送り続けていたのであるが、それとことごとく類似、というか彼の論文をデッドコビーしたような論文がそのジャーナルに、あろうことか、彼の論文に先んじて送られていたのである。
 したがって彼の研究成果は次々と、そのデッドコピーを送った何者かの業績となっていってしまったのだ。
 それでも彼はめげずに研究を続けた。
 革新的な研究を続けているにもかかわらず、彼は未だ、そのデッドコピーを送り続ける何者かによって業績を奪われ続け、したがって彼は未だ、全くの無名の研究者だったのだが…
 そしてそれからも彼は研究を続け、奪われ続け、彼はいつまでも無名で、その何者かは、あろうことか、世界的に有名な研究者となり、マスコミにももてはやされ、世界中でその「何者か」を知らぬ者はいないという事態にまで至ったのである。

 そして時が過ぎ、その何者かは、彼から奪った革新的研究により、あろうことか、ノーベル物理学賞を受賞するに至る。もちろんその何者かは、世界中で称賛を浴びることになる。
 しかしそんな「何者か」の事など気にも留めず、彼は気丈に研究を続けた。
 彼の研究分野は天体物理学で、主に小惑星の研究を行っていたのであるが、ある夜、彼は自宅に設置した天体観測所の望遠鏡で、ある天体を発見した。
 そしてそれを不審に思った彼は、そのデータを取るとそれをいつも研究をしている自室へ持ち帰り、その不審な天体の直径と軌道を計算した。
 するとその天体の直径は300m、そしてその軌道は、3年後に地球に衝突するものであると判明する。
(これは大変なことだ…)
 もちろんそう考えた彼は、取る物も取り敢えず、論文作成に取り掛かった。
 そして程なく、その小惑星の現在地、軌道などを記した論文が仕上がったのであるが、その直後、彼は強烈な胸の痛みを感じ、そのまま意識がもうろうとし始めた。
 遠ざかる意識の中で、彼は考えた。
(だめだだめだ。このことを一刻も早く、世界中の人に知らせなければ…)
 しかし残念ながら、彼はそのまま帰らぬ人となってしまったのだ。
 
 そして数日後、NASAから重大発表が行われた。
 今から3年後、地球に直径300mの小惑星が衝突すると予測され、米政府は核攻撃も含め、この大惨事を回避すべく行動を開始するとのことであった。
 そのNASAの会見の席には、NASAの代表者の傍らに、彼の研究をことごとく盗んでいた、その「何者か」の、誇らしげな姿が…
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