出来損ないのタイムマシン(その続き)
文字数 3,930文字
それで俺が、家の周囲のフェンスにタイムマシンをプラスマイナス逆に繋ぎ、「一瞬」だけ作動させてみると、突然、家の周囲の景色が「わさわさわさっ!」っと動き、それから急いで接続を外すと家の周囲は動きを止め、見てみると周囲はいきなり未来的になっていた。
ここは住宅地なのだけど、新築だった家はかなり古びていて、その一方、見掛けないモダンな芸術的な家がちらほらと建っていた。
だけどこの雰囲気だと数百年とか、ましてや数万年とかいう途方もない未来ではなく、せいぜい数十年という感じだ。
それで俺は少しだけほっとした。
それから俺は庭から外へ出て、外の道をたまたま散歩していた初老の人に「こんにちわ♪」と話しかけたけれど、その人の顔を見て、俺はすぐに誰だか分かった。
隣に住んでいた小学生だった子なのだ!
いや、子供ではない。初老の人だ。
それから少し話してみると御両親は老人ホームにいて、その人は両親のいた家に住んでいるらしかった。
ということは、やっぱりここは5~60年後だろう。
俺はタイムマシンをフェンスに「一瞬」繋いだ訳で、その時間は直感的、あるいは動物的だったのだが、それがちょうどいい按配だったようだ。
何万年もの未来だと、いろいろとややこしかっただろうから。
それから俺は、少し散策しようと、近所をぶらぶらと歩いた。
前にも言ったように、俺の体調はいまいちだったから、本当にゆっくりと歩いたのだ。
で、それから少し歩くと、近くに開業医の医院があった。
この時代に来る前から、俺は時々、風邪ひきなんかで世話になっていた医院なのだ。
同じ土地にあったのだが建物は新しく建て代わっていて、中に入ってみると、受付でカウンターにある機械に手をかざすように言われた。
どうやらこれで俺を認証できるらしい。
それで俺は100歳ということになっていたようだ。
つまり俺は60年後へ来ていたという訳だ。
俺はそのことに驚いたが受付の人はさして驚かず、(この時代、100歳でも若々しい人はざらなのだろう)それから待合室で待てと言われ、俺の年齢と同じ100Gと書いてある立体テレビを見ていると、程なく名前を呼ばれ、俺は診察室に通された。
診察室にいたのは、以前世話になっていた先生の息子さんとおぼしき、やはり初老の先生だった。
それで俺の不治の病のことや、どうせならとタイムマシンのことも話すと、その先生は電子カルテをモニターで見ながら「タイムマシンですか。そうですかそうですか。だからあなたはデータ上は100歳なんですね。つまり過去からいらっしゃったんだ」とあっさりと言われ、それから「それじゃご病気を診ましょうか。そこのスキャナーを通って下さい」と言って、空港で飛行機に乗るときの金属探知機みたいな機械を指差した。
それで俺はゆっくりと歩いてそのスキャナーを通り抜け、それからまた診察室の丸い椅子に座った。
すると先生は机のモニターを見て、「ああ、がんですね」と、ほっとした表情であっさりと言ってから薬をくれ、「一日二回、一週間ほど飲んだら治りますよ♪」と言った。
で、医院を出て家でその薬を一錠飲んだが、小一時間ほどで、俺の体調はあっさりと完璧になった。
だからこの薬を一週間も飲めば、完璧に治るだろうと思った。
そういうわけで俺は不治の病から解放されたのだ!
やった!
だけど何分、件のタイムマシンは出来損ないのタイムマシンで、それをプラスとマイナスを逆に接続しただけの、要するに「一方通行のタイムマシン」だから…、つまりもはや元の時代には帰れないのだ。
だからこれからここに住むしかない。
60年後のこの世界に!
だけど、ここで仕事といっても…
で、とにかくここでどうやって暮らそうかと思っていたが、夕方になり、ともあれ気分も良いし、散歩でもして今後のことを考えようと思い、それで散歩していたら、さっきの開業の先生も散歩をしていて、俺が「やあ先生、先ほどはどうも…」と言ってから少々立ち話をした。
何でもこの時代、労働は効率化され、したがって労働時間は大幅に短縮され、それは開業医も例外ではなく、午後4時にはとっとと医院を閉めてフリーになるのだそうで、だから健康のために毎日散歩をしているのだそうな。
もはや「医者の不養生」なんて時代ではないのだ!
で、俺がここでどうやって暮らそうかと思案中という意味のことを言うと、「戸籍上100歳の方なら年金がもらえますよ。質素な暮らしなら十分やっていけるでしょう」と言ってくれたので俺は少し安心した。
それからその先生が「で、あなた、タイムマシンを研究されているでしょう?」と興味津々に言い、だから俺が「そうですよ♪」と言うと、その先生は顔を輝かせ、「そうですかそうですか。それはちょうど良かった!」と言ってから、「良かったら今夜うちに来ませんか? 焼酎でも飲みながら、ゆっくりタイムマシンの話でも…」と言い、そういう訳でその夜、俺はその先生の医院を訪ね、そこは自宅にもなっているらしいのだが、そこの地下の、その先生の「秘密基地」みたいな場所で、焼酎を飲みながらゆっくりとタイムマシン、その他の話をした。
で、実は驚いたことにその先生は、医院の地下室でなにやら研究をしているらしかった。
それはタイムマシンではなく宇宙船だった。
その地下室には製作中の宇宙船が置いてあり、それは自動車のミニバンほどのサイズで、内部は結構な居住空間がある。
そしてそれにはイオンエンジンというものが二機搭載されており、何と既に、地球を脱出して宇宙を飛ぶ能力もあるのだそうだ。
それからその時代の天文学の研究によると、地球から最も近い恒星であるアルファセンタウリという星をの周りを、地球そっくりの惑星が廻っていて、そこは人間が快適に暮らせる環境であることが確実視され、それで先生はこの医院は先生の息子に任せて、この宇宙船でその惑星へ行き、そこに移住して老後を過ごしたいのだそうな。
だけどその先生が開発した宇宙船は、いわゆる「ロケット並み」の速さで飛べるらしいのだが、それでもその惑星まで行くのに1000年ほど掛かるらしい。
なんたって光の速さでも4年ほど掛かるからだそうだ。
つまり現時点でもその宇宙船でその惑星に行くこと自体は可能なのだそうだけど、1000年も掛かったんじゃ、着いた頃には先生はきっとミイラだ。
ミイラになっては老後もへったくれもないので、それで何か解決策はないのかと思案中だったというのだ。
その話を聞いて俺はすぐにピンときた。
その宇宙船に、件の「出来損ないのタイムマシン」の「プラスマイナス逆接続」をやればいいのだ!
で、宇宙船は完全自動操縦らしく、それは自動運転の自動車のメカを流用したものらしいけれど、ともあれあたかも矢沢がよそ見をしている間に車が順調に走るプロパイロットの如く、その宇宙船も全自動でその惑星まで到達するらしい。
だからタイムマシンで一瞬にして1000年後にタイムスリップできるのなら、その間も宇宙船は自動操縦で飛び続けるのだから、彼らにとっては「一瞬」でその星へ行ける筈だ。
それで話は決まった。
それから早速俺は、出来損ないのタイムマシンの逆接続の作戦を練った。
問題は、どうやったら精確に1000年後へタイムスリップ出来るかだ。
それで俺は家に帰ってから庭のフェンスに逆接続したタイムマシンのコントロールの動作履歴を調べた。
すると俺が60年後へ来たときのマシンの作動時間は0.513秒だったようだ。
ところで、逆接続だと理論上は「一瞬」の動作で「無限」の未来へ移動する筈である。
だけど実際は0.513秒で60年後へ来ていたのである。
何故か?
それは機械には「過度特性」というものがあり、動作の立ち上がり時間だとかインピーダンスやインダクタンスやキャパシタンスの関係もあり、必ずしも厳密に「数学的」に動くわけではないのだ。
つまりVRMMOとかのゲームではなく、リアルの電気回路とはそういうものなのだ。
それで、それから俺は、このデータから1000年後へ移動するための接続時間を計算した。
で、計算によるとその作動時間は9.99秒だった。
それから俺はその先生の宇宙船に出来損ないのタイムマシンを逆接続し、それから先生がボタンを押すだけで、しかるべき時間作動し、その結果、精確に1000年後へ行けるように設定した。
それからいよいよその先生の出発の日が来た。
先生は奥さんと共に宇宙船に乗り、宇宙船の後ろにはいろんな家財道具や食料が満載されていた。
「おかげさまで、あなたの開発されたタイムマシンで、私たちの夢が叶います。私たちはあの惑星でのんびりと老後を過ごそうと思います。本当にありがとうございました。感謝いたします」
「とんでもございません。先生は私の不治の病を治して下さった。だから先生は私の命の恩人ですよ」
「そう言っていただけると私も嬉しいです」
「そうそう、タイムマシンの作動は宇宙空間に出て、自動操縦をオンにしてからがいいと思います。地球の大気の影響で進路が不正確になるといけないですから」
「了解しました。そうします。それじゃ…、短い間でしたが、私はあなたと出逢えてとても楽しかった。それじゃ、お元気で」
「私も楽しかったです。それじゃ、先生お元気で!」
それから宇宙船は音もなく上昇し、青空の中の点になり、そして俺の視界から消えた。
その澄み切った青空を、俺はいつまでも見つめた。
彼らがその惑星に無事到着できることを、俺は祈るばかりである。
出来損ないのタイムマシン 全て完
ここは住宅地なのだけど、新築だった家はかなり古びていて、その一方、見掛けないモダンな芸術的な家がちらほらと建っていた。
だけどこの雰囲気だと数百年とか、ましてや数万年とかいう途方もない未来ではなく、せいぜい数十年という感じだ。
それで俺は少しだけほっとした。
それから俺は庭から外へ出て、外の道をたまたま散歩していた初老の人に「こんにちわ♪」と話しかけたけれど、その人の顔を見て、俺はすぐに誰だか分かった。
隣に住んでいた小学生だった子なのだ!
いや、子供ではない。初老の人だ。
それから少し話してみると御両親は老人ホームにいて、その人は両親のいた家に住んでいるらしかった。
ということは、やっぱりここは5~60年後だろう。
俺はタイムマシンをフェンスに「一瞬」繋いだ訳で、その時間は直感的、あるいは動物的だったのだが、それがちょうどいい按配だったようだ。
何万年もの未来だと、いろいろとややこしかっただろうから。
それから俺は、少し散策しようと、近所をぶらぶらと歩いた。
前にも言ったように、俺の体調はいまいちだったから、本当にゆっくりと歩いたのだ。
で、それから少し歩くと、近くに開業医の医院があった。
この時代に来る前から、俺は時々、風邪ひきなんかで世話になっていた医院なのだ。
同じ土地にあったのだが建物は新しく建て代わっていて、中に入ってみると、受付でカウンターにある機械に手をかざすように言われた。
どうやらこれで俺を認証できるらしい。
それで俺は100歳ということになっていたようだ。
つまり俺は60年後へ来ていたという訳だ。
俺はそのことに驚いたが受付の人はさして驚かず、(この時代、100歳でも若々しい人はざらなのだろう)それから待合室で待てと言われ、俺の年齢と同じ100Gと書いてある立体テレビを見ていると、程なく名前を呼ばれ、俺は診察室に通された。
診察室にいたのは、以前世話になっていた先生の息子さんとおぼしき、やはり初老の先生だった。
それで俺の不治の病のことや、どうせならとタイムマシンのことも話すと、その先生は電子カルテをモニターで見ながら「タイムマシンですか。そうですかそうですか。だからあなたはデータ上は100歳なんですね。つまり過去からいらっしゃったんだ」とあっさりと言われ、それから「それじゃご病気を診ましょうか。そこのスキャナーを通って下さい」と言って、空港で飛行機に乗るときの金属探知機みたいな機械を指差した。
それで俺はゆっくりと歩いてそのスキャナーを通り抜け、それからまた診察室の丸い椅子に座った。
すると先生は机のモニターを見て、「ああ、がんですね」と、ほっとした表情であっさりと言ってから薬をくれ、「一日二回、一週間ほど飲んだら治りますよ♪」と言った。
で、医院を出て家でその薬を一錠飲んだが、小一時間ほどで、俺の体調はあっさりと完璧になった。
だからこの薬を一週間も飲めば、完璧に治るだろうと思った。
そういうわけで俺は不治の病から解放されたのだ!
やった!
だけど何分、件のタイムマシンは出来損ないのタイムマシンで、それをプラスとマイナスを逆に接続しただけの、要するに「一方通行のタイムマシン」だから…、つまりもはや元の時代には帰れないのだ。
だからこれからここに住むしかない。
60年後のこの世界に!
だけど、ここで仕事といっても…
で、とにかくここでどうやって暮らそうかと思っていたが、夕方になり、ともあれ気分も良いし、散歩でもして今後のことを考えようと思い、それで散歩していたら、さっきの開業の先生も散歩をしていて、俺が「やあ先生、先ほどはどうも…」と言ってから少々立ち話をした。
何でもこの時代、労働は効率化され、したがって労働時間は大幅に短縮され、それは開業医も例外ではなく、午後4時にはとっとと医院を閉めてフリーになるのだそうで、だから健康のために毎日散歩をしているのだそうな。
もはや「医者の不養生」なんて時代ではないのだ!
で、俺がここでどうやって暮らそうかと思案中という意味のことを言うと、「戸籍上100歳の方なら年金がもらえますよ。質素な暮らしなら十分やっていけるでしょう」と言ってくれたので俺は少し安心した。
それからその先生が「で、あなた、タイムマシンを研究されているでしょう?」と興味津々に言い、だから俺が「そうですよ♪」と言うと、その先生は顔を輝かせ、「そうですかそうですか。それはちょうど良かった!」と言ってから、「良かったら今夜うちに来ませんか? 焼酎でも飲みながら、ゆっくりタイムマシンの話でも…」と言い、そういう訳でその夜、俺はその先生の医院を訪ね、そこは自宅にもなっているらしいのだが、そこの地下の、その先生の「秘密基地」みたいな場所で、焼酎を飲みながらゆっくりとタイムマシン、その他の話をした。
で、実は驚いたことにその先生は、医院の地下室でなにやら研究をしているらしかった。
それはタイムマシンではなく宇宙船だった。
その地下室には製作中の宇宙船が置いてあり、それは自動車のミニバンほどのサイズで、内部は結構な居住空間がある。
そしてそれにはイオンエンジンというものが二機搭載されており、何と既に、地球を脱出して宇宙を飛ぶ能力もあるのだそうだ。
それからその時代の天文学の研究によると、地球から最も近い恒星であるアルファセンタウリという星をの周りを、地球そっくりの惑星が廻っていて、そこは人間が快適に暮らせる環境であることが確実視され、それで先生はこの医院は先生の息子に任せて、この宇宙船でその惑星へ行き、そこに移住して老後を過ごしたいのだそうな。
だけどその先生が開発した宇宙船は、いわゆる「ロケット並み」の速さで飛べるらしいのだが、それでもその惑星まで行くのに1000年ほど掛かるらしい。
なんたって光の速さでも4年ほど掛かるからだそうだ。
つまり現時点でもその宇宙船でその惑星に行くこと自体は可能なのだそうだけど、1000年も掛かったんじゃ、着いた頃には先生はきっとミイラだ。
ミイラになっては老後もへったくれもないので、それで何か解決策はないのかと思案中だったというのだ。
その話を聞いて俺はすぐにピンときた。
その宇宙船に、件の「出来損ないのタイムマシン」の「プラスマイナス逆接続」をやればいいのだ!
で、宇宙船は完全自動操縦らしく、それは自動運転の自動車のメカを流用したものらしいけれど、ともあれあたかも矢沢がよそ見をしている間に車が順調に走るプロパイロットの如く、その宇宙船も全自動でその惑星まで到達するらしい。
だからタイムマシンで一瞬にして1000年後にタイムスリップできるのなら、その間も宇宙船は自動操縦で飛び続けるのだから、彼らにとっては「一瞬」でその星へ行ける筈だ。
それで話は決まった。
それから早速俺は、出来損ないのタイムマシンの逆接続の作戦を練った。
問題は、どうやったら精確に1000年後へタイムスリップ出来るかだ。
それで俺は家に帰ってから庭のフェンスに逆接続したタイムマシンのコントロールの動作履歴を調べた。
すると俺が60年後へ来たときのマシンの作動時間は0.513秒だったようだ。
ところで、逆接続だと理論上は「一瞬」の動作で「無限」の未来へ移動する筈である。
だけど実際は0.513秒で60年後へ来ていたのである。
何故か?
それは機械には「過度特性」というものがあり、動作の立ち上がり時間だとかインピーダンスやインダクタンスやキャパシタンスの関係もあり、必ずしも厳密に「数学的」に動くわけではないのだ。
つまりVRMMOとかのゲームではなく、リアルの電気回路とはそういうものなのだ。
それで、それから俺は、このデータから1000年後へ移動するための接続時間を計算した。
で、計算によるとその作動時間は9.99秒だった。
それから俺はその先生の宇宙船に出来損ないのタイムマシンを逆接続し、それから先生がボタンを押すだけで、しかるべき時間作動し、その結果、精確に1000年後へ行けるように設定した。
それからいよいよその先生の出発の日が来た。
先生は奥さんと共に宇宙船に乗り、宇宙船の後ろにはいろんな家財道具や食料が満載されていた。
「おかげさまで、あなたの開発されたタイムマシンで、私たちの夢が叶います。私たちはあの惑星でのんびりと老後を過ごそうと思います。本当にありがとうございました。感謝いたします」
「とんでもございません。先生は私の不治の病を治して下さった。だから先生は私の命の恩人ですよ」
「そう言っていただけると私も嬉しいです」
「そうそう、タイムマシンの作動は宇宙空間に出て、自動操縦をオンにしてからがいいと思います。地球の大気の影響で進路が不正確になるといけないですから」
「了解しました。そうします。それじゃ…、短い間でしたが、私はあなたと出逢えてとても楽しかった。それじゃ、お元気で」
「私も楽しかったです。それじゃ、先生お元気で!」
それから宇宙船は音もなく上昇し、青空の中の点になり、そして俺の視界から消えた。
その澄み切った青空を、俺はいつまでも見つめた。
彼らがその惑星に無事到着できることを、俺は祈るばかりである。
出来損ないのタイムマシン 全て完