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文字数 946文字

 彼はその夜の残業のために、オフィースの近くにあるコンビニへ、夜食の弁当と缶コーヒーと夕刊を買いに行った。
 そして彼はそれらを籠に入れるとレジへと向かった。すると、
「お弁当、温めますか?」と店員が訊くので、「いや、結構」と彼は答えた。

 オフィースにはちょっとしたキッチンもあり、電子レンジもあったので、食べるときに温めればよかったのだ。だけど店員が、

「で、夕刊はどうします?」と訊くので、
「夕刊?  夕刊は買うんだけど…」
 彼はそう答えた。

 それでも店員は、けげんな顔をしてこう言った。
「だからそうじゃなくて、その夕刊は温めますか?」
 気の利いたジョークを言う奴だと、彼は思った。そこで、

「いやいや、この夕刊も温めなくて結構だよ」
 彼は笑いながらそう言うと、お金を払って店を出た。
 
 コンビニからオフィースまでの帰り道の途中には、公園があった。
 晩秋の夕刻近くだったが、思いのほか暖かい日だった。
 ベンチには西に傾いた日差しが当たっていた。

 一日中オフィースで仕事をしていた彼は、気分転換にと、しばらくベンチに腰かけ、その夕刊を読むことにした。
 
 その夕刊には、背筋がぞっとするような少年らの凶悪事件が並んでいた。
 それを見た彼は、心が凍るような気分になった。

 ふと彼は、その夕刊が、氷のように冷たくなっていることに気付いた。
 彼は背筋が寒くなり、夕刊を読むのをやめようとした。
 だけど彼の手が凍りついて動かなかった。

 彼は夕刊の残虐事件から目を離したかった。
 しかし離そうとしても、彼の目も凍りつき、記事から目が離れなかった。
 日が沈み、辺りは暗くなった。
 しかし夕刊の文字は闇の中に浮かび上がるように、冷たく光っていた。

 こんな残虐な記事は読みたくないのに、凍りついた夕刊は、彼を離さなかった。
 やがて、彼の体全体が凍っていった。
 
 その夜仕事を終えたコンビニの店員は、帰り道の途中その公園を通りかかった。 
そして公園のベンチで凍りついている男の姿を見つけると、こうつぶやいた。

「だから言わないこっちゃない。せっかく僕が、その夕刊を温めましょうかって、言ってあげたのに…」

 それからその店員は「まったくもう!」と言って、そしてバケツに入れたお湯を持ってくるため、コンビニへと引き返した。

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