NOVEL BLEND(再掲載)

文字数 2,309文字

 NOVEL DAYSのコンテスト作品(落選)ですが、コンテスト条件の2000字縛りを取り除き、加筆後再掲載します。
 以下、作品
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 彼は新しいコーヒーの研究をしていた。
 コーヒー豆はコーヒーの木になるのだけど、実は彼はその新しいコーヒーの木を求め、アマゾンの奥地を探検していたのである。もちろん「アマゾン」と言ったって、通販で新しいコーヒーの木を探していたわけではない。
 で、そもそも何故にアマゾンの奥地かはさておき、ともあれそこで彼は、「画期的なコーヒーの木」なるものを見つけた。
 それはアマゾンの奥地に自生する、とあるコーヒーの木だったのだが、彼はその木に近づくや、何らかのインスピレーションを感じていたようだ。
 それでどのようなインスピレーションかはさておき、それから彼は、その苗を持ち帰り、栽培し、品種改良し、いろいろやって、そしていよいよ念願の「画期的なコーヒー」の試作品が完成した。

「先輩、飲んでみます?」
「おお、ちょうど良かった。どうもこの頃、小説が進まなくて…」
「それは大変ですね。商売あがったりじゃないですか。ええと、それじゃ、この試作品のコーヒー飲んで、気合い入れて、執筆、頑張ってくださいね♬」

 数日後。
「なんか知んねえけどさあ、すげえ小説書けるんだよな」
「で、コーヒー、飲んでます?」
「もちろん。で、あのコーヒー飲んでると、何故か、ええと、ふつふつと小説が浮かんできやがるんだよ」
「へぇー、そうなんですか。めちゃくちゃ良かったじゃないですか。だいたい小説が進まないなんて言ってたし」
「それそれそうなんよ。十万字の長編の新作、三日で書けたし、五千字のショートショートもさくさくと六つ仕上がったし」
「それは凄い!」

 そういう訳でその彼の先輩は、「小説が進む進む♫」とか言いながら、嬉々として小説を爆書きし始めたのだ。ああ、ちなみにご飯が進むとも言っていたし。
 まあご飯はさておき、つまり、何故だかわからないけど、ともあれそのコーヒーのお陰で、めちゃくちゃ小説が書けるらしいのだ。
 で、やがてそのコーヒーは製品化され、彼はそのコーヒーの名前を「NOVEL BLEND」と決めたらしい。
 だいたいめちゃくちゃ小説が書けるから。
 そしてその新製品のコーヒーは売れに売れた。
 何故かというと、そのコーヒーが極端に美味しかったかららしいが、まあそれはいい。もちろん小説がかける…、は直接的な原因でもなかった。ともあれ美味かったからなのだ。

 ともあれそういう事情で、しばらくすると我が国は「一億総小説家」というような状態になってしまった。つまり皆、そのコーヒーを「うまいうまい」貪り飲んでは小説を爆書き…
 しかしながらそれに対し、大いに困っていたのが、それまで「小説家」と呼ばれていた巨匠のセンセイたちである。
 そもそも今やあまねく国民において、小説は「書けて当たり前」状態となってしまっていて、そうすると巨匠と言われるセンセイたちでさえ、さっぱり依頼が来なくなったのである。芥川賞候補といったって、軽く三千万人くらいいたらしいし。
 でも、巨匠のセンセイが困るのはこの話に関係ないし、知ったことではない。
 で、そんな異常な状況下、巷にはそれこそ天文学的な数の、紙の媒体は云うに及ばず、電子書籍、小説サイトと、おびただしい数の小説が氾濫したのである。
 氾濫してどうなったか。
 つまり圧倒的な数の小説が氾濫する一方、それを読む人も一定数はいた。必ずしも国民全員がコーヒー好きな訳もないし。それで彼らは嬉々として溢れかえった小説を爆読みした。まあ、それもそれでよい。
 でもそんなことより!これでは社会が立ち行かなくなってしまったのだ。
 一億総小説家時代…
 大体徹夜もいとわずに、みんな小説を爆書きした訳であるからにして、全員皆寝不足で、まともに仕事が出来ない。だからありとあらゆる業種において作業能率が爆下がりし、人手不足で生産性も爆下がりし、物不足、そしてGDPは下がりまくった。
 ともあれそういう訳で、数年もすると我が国の経済は豪快に壊滅し、かくして、我が国は世界的にも最貧国の仲間入りをしてしまったのだ。
 いやいや、実はそもそもその前に、我が国はマニアックな増税、すなわち「セルフ経済制裁」で、どの道最貧国への道を爆走していたのだが。
 しかしてその原因は、増税マニアの誰かさんなのだが。
 それはもういいが実は、コーヒーを開発した彼はその増税マニアとは異なり、極めて責任感が強く、尚且つ、我が国の惨状を憂えていたのである。
(自分の開発したコーヒーのせいで、我が国が滅んでしまう…)
 いやいや、我が国の惨状を招いたのは、本当のところは、実は、あの増税マニアのあのお方のせいじゃ?
 ともあれそれで、彼はとある行動に打って出た。
 即ち彼は、再びアマゾンの奥地へと旅立ったのだ。お察しの通り、小説が書けなくなる、いや、小説が嫌いになるようなコーヒーを探しに。
 だけどそんなコーヒーの木は、最後まで見付からなかった。
 ところが彼は意外なコーヒーの木を見付けたのだ。それは小説ではなく、どういう訳か税金が嫌いになるという奇妙なコーヒーの木だった。
 それから彼はつぶやいた。
「よし。このコーヒーをあの人の飲ませよう。増税が大好きなあの人に…」 

 で、その人に飲ませるや、セルフ経済制裁な終了。
 大減税の効能で国は思い切り栄え、副産物として我が国は世界に冠たる小説王国として栄えに栄え、海外からの莫大な著作権収入に潤い、そういう訳で我が国は未来永劫豪快に栄えまくったのである。
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