アタゴの動く家 其の完結

文字数 2,191文字

 本作品は全3話構成です。これは完結編です。念のため。以下、作品♪


 おれが作ったアタゴの動く家に備わる「事前調査機能」は、まさに「未来テレビ」といえるではないか。
 移動するしないは別にして、調査だけやればいいのだ。

 何時の時代の何処ではどうなっているのか?
 つまりこれが分かるのである。
 考えようによっては、これは茶トラ先生のタイムエイジマシンに匹敵する、いやいやそれ以上の代物かも知れぬ。

 しかしまあ、タイムエイジマシンとどちらがすげぇ? などということはこの際どうでもよい。
 茶トラ先生はおれの親友だ。

 まあともかく! そういうことはどうでもいいが、実はおれは、紀元前2000年頃の北ドイツに、火星から移住させた彼ら、すなわちゲルマン民族がどうなっていくのかを、その未来テレビでウォッチしたのだ。
 幸せに暮らしているか心配だったから。

 もちろんこれまでのことは歴史に力いっぱい書いてある。ゲルマン人の大移動とか、戦争もあったし、波乱万丈の歴史でもある。

 だけどおれが知りたいのは、彼らの未来なのだ。
 そういう訳でおれは、アタゴの動く家で火星から彼らを連れて行った、北ドイツのあの場所がどうなるのか、そして彼らの未来について、その未来テレビでウォッチすることにしたのだ。

 で、その未来テレビ…、それはグーグルアースで見る感じだ。
 しかも時間軸を変更できる。

 それで、時間を進めながら未来テレビでウォッチしていると、何と1000年程後のことだけど、この地に小惑星が落下し、壊滅してしまうのだ。
 画面には突然、巨大な衝突クレーターが現れたのである!


 それで早速おれはアタゴの動く家で、小惑星落下前のその地に移り住むことにした。
 で、事前調査、根回しも終わり、それからおれは当たり前の如く、そこでしゃあしゃあと生活を始めたのだが、近所の人に訊いてみても、その小惑星のことは誰も知らなかった。

 この時代の天文学でも、衝突する小惑星を発見できないのだろうか?
 だけどこの地域の人々の暮らしぶりを見ると、1000年後の未来だと言うのに、大して進歩の跡が見られないのだ。相変わらず農耕民族だったのだ。

(人類はこの1000年間、どうしていたのだろう)
 おれは少々落胆した。

 それで近所の人や、そこで得られるメディアなどの情報や、それから「歴史」を調べたりすると、この人類の「停滞」の原因は、繰り返された紛争や戦争や、それから度重なる異常気象によるものらしかった。

 そして天文学を始め、さまざまなサイエンスの分野は、各国の国家予算も著しく削減され、従って、壊滅的な小惑星が接近しているにも拘らず、それを発見できないという体たらくをきたしていたのである。


 そんなある日、この土地で友達となった数人がおれの家へ来て、例によって土地のワインなんかを飲みながら晩くまで語り合った。
 そしてご他聞にもれず、酒の勢いもあり、おれはアタゴの動く家のことや、いろいろいろいろ全ぇ~ん部話した。

 するとこの土地の人々は、火星のとき同様真面目に、真剣に、誠実におれの話を聞いてくれた。
 そしておれがアタゴの動く家で、20億年前の火星からゲルマン人風の人々を紀元前2000年頃に、この地へ移住させたという話も真剣に聞いてくれた。
 もちろん小惑星がこの地へ落ちて壊滅するという忌まわしい未来の話も真剣に聞いてくれ、そういう訳で、彼らは20億年前の火星に移住したいと言い始めた。

 ともかくそうやってさくさくと話が進み、おれはアタゴの動く家で彼らを火星へ移住させることとなった。

 それで未来テレビ、いやいや、この場合は「過去テレビ」となるわけだが、それで20億年前の火星の様子をウォッチした。
 そしたら火星は乾燥化が進んでいたが、件のマリネリス峡谷周辺に緑豊かな土地か残っていて、そこはあと5000年ほどは住めそうで、しかもそこにはまだ高等生物は住んでいないということが判明したのだ!

 それで「丁度いいではないか!」「早速そこへ移住しよう!」ということになり、これまた100人ほどのゲルマン人を、アタゴの動く家で火星までピストン輸送することになった。

 もちろんおれも同行したが、そこの気候は地球の北ドイツのそれに近く、そして水と緑の豊かな場所だった。

 そして最後のグループを送り届け、それからおれは彼らに別れを告げた。
 すると彼らの代表者が言った。(日本語に翻訳)

「本当にありがとうございました。この土地はわれわれが住んでいた北ドイツの土地とそっくりです。水も、豊かな緑もあります。気候も私たちはちょうどいい。私たちはここを開拓して、ここを第二の故郷にしたいと思います」


 そういう訳で、おれが最初に二十億年前の火星へ行ったときに、そこにドイツ人がいた理由もはっきりした。
 つまりおれが連れて行ったのだ!

 アタゴの動く家、完

 追伸 北ドイツへの小惑星の衝突については親友の茶トラ先生に連絡した。あの人の持つ「飛び道具」で小惑星を始末してくれるのではなかろうか。
 追伸2 具体的に小惑星をどうしたかは拙著「タイムエイジマシン」最新話で書いたのでよろしければご覧ください。いひひひひ。
 

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