天動説の地震
文字数 2,323文字
まず最初にお断りしておきますが、この物語は相変わらず「天動説」という、極めて非科学的な概念を前提に書いております。
すなわち近代科学とは無縁の、つまりでたらめなものです。
その点を十分ご理解の上、自己責任でお読みください。
つまり天動説を信じ込み、
「え? 地球って丸かったの?」とか、
「お空がぐるぐる回っているのでしょう?」
とか言うことにより、学校や会社などで周囲の人を凍り付かせる事態となっても、当局は一切関知しないからそのつもりで。
えへん。
それでは小説を始めます。
天動説の世界では、最近、頻繁に地震が発生し、大きな問題となっていた。
地震は毎日一回、ほぼ決まった時刻に起きていた。
最初のうちその震度は「2」程度のごく弱いものだったけれど、回を重ねるごとにそれは少しずつ強くなり、最近に至っては震度5弱程度に達し、被害も出始めていた。
しかもこのまま放置しておけば地震はどんどん強くなり、毎日激震でも起ころうものなら、甚大な被害が予測されたのだ。
そこで政府は調査団を編成し、調査に乗り出すこととなった。
その調査団は、地震学者はもとより、さまざまな分野の専門家で構成されていた。
実はこの地震の震源地は、北極付近だった。
それはこれまでの膨大な地震のデータから分かっていたし、それが北極海の海底付近であるということも判明していたのだった。
そして調査団は船で、その北極へ向け出発した。
地震は北へ行くほど強くなっていった。
もちろん毎回の地震で津波も発生していたし、それも北へ行くほど高い津波となっていた。
しかし彼らが乗っていたのは大型の船だったので、とりあえず津波で船が転覆したり、沈んだりする恐れはなかった。
それからしばらくして、彼らの船は北極海に到達した。
そしてこれまで船から行われた詳細な調査の結果、震源の場所もほぼ特定されていた。
それは北極点のやや南だった。
そこで彼らの船はその地点へと向かい、その海域に達した後、船を係留し、早速地震の調査を開始した。
まず、船からの超音波探査を行った。
すると探査の結果、海底を南北に走る、巨大な「シャフト」のようなものが発見された。
画像からは、そのシャフトの直径は数十メートルと予測され、それは南方へ延々と続き、北は北極点でどん詰まりになっていた。
(もちろん天動説の世界だから、北極点より北に「世界」はないのだ!)
それから彼らは、船に搭載してあった小型潜水艇に乗り換え、海底にある、そのシャフトの調査を始めることとなった。
潜水艇が海中を進んで行くと、超音波探査で捉える事の出来た、その巨大なシャフトが、潜水艇の操縦席からもはっきりと見え始めた。
それはやはり途方もなく巨大なシャフトで、それが海底にある、やはり巨大な「コロ」のような物の上に乗っていた。
そして彼らがつぶさにそれを観察していると、そのシャフトはコロの上で一緒にゆっくりと回転していることが分かった。
何というかコロが回転し、それに導かれるようにシャフトが回転しているのだ。
そして観察の結果、シャフトの回転の周期は24時間に1回という事も判明した。
それから潜水艇の休憩室で、調査団の専門家たちは、国を出る時に差し入れされていた缶コーヒーのジョージアなんかを飲みながら、それについて議論した。
「もしかしてこのシャフトは、天球の回転と密接な関係あるのでは?」
(繰り返すが、ここは天動説の世界なのだ!)
「おそらくこの巨大なシャフトは、天球が回るための軸なのでしょう」
「なるほど。24時間に一回転している訳ですからね」
「それじゃ、その下のコロが、シャフトを駆動しているのでしょうか?」
「おそらくこれによって、天球が回転しているのでしょうね」
それから彼らは、そのシャフトの状態をさらに詳しく観察するため、潜水艇を動かし、シャフトの周囲を一周した。
するとそのシャフトに一か所、とても大きな傷があることが判明した。
それは途方も無く重大な発見だった!
それから彼らは再びジョージアを飲みながら…
「おそらく、このシャフトの傷がコロと接するときに、激しい振動が起こるのでしょうね」
「そしてシャフトは、24時間で一回転する」
「そうか! それがきっと地震の原因で、そして24時間に一度起こることも説明が付く訳だ!」
「しかし地震が、回を重ねるごとに大きくなっているのは?」
「ゴトンゴトンと揺れるたびに、おそらくシャフトの傷が深くなっているのでしょう」
「このままじゃ、毎日激震が起こることにもなりかねません」
「それでは甚大な被害が避けられません」
「困りましたね」
「それじゃ対策は、一体どうすればいいのでしょう?」
「それは…」
「対策…」
「うーん…」
それからややあって、その中の一人が意を決したように、こう切り出した。
「対策は…、やはりこのシャフトを新品に交換するしかないでしょう」
「だけどこれが、天球が回る為の軸ならば…」
「シャフトはおそらく、南極まで続いているでしょうね」
「南極までですか…」
「天球を貫いているのであれば」
「そしてそれを交換…」
「しばらくは、天球の回転を止めなければいけませんし」
「すると太陽や月や星の運動も止まる事になりますね」
「人々の生活への、重大なる影響は避けられますまい」
「しかも問題は、これほど大きなシャフトをどこで建造して、どうやって交換するかです」
「これは人類にとって、まさに歴史的な大工事になるでしょう」
すなわち近代科学とは無縁の、つまりでたらめなものです。
その点を十分ご理解の上、自己責任でお読みください。
つまり天動説を信じ込み、
「え? 地球って丸かったの?」とか、
「お空がぐるぐる回っているのでしょう?」
とか言うことにより、学校や会社などで周囲の人を凍り付かせる事態となっても、当局は一切関知しないからそのつもりで。
えへん。
それでは小説を始めます。
天動説の世界では、最近、頻繁に地震が発生し、大きな問題となっていた。
地震は毎日一回、ほぼ決まった時刻に起きていた。
最初のうちその震度は「2」程度のごく弱いものだったけれど、回を重ねるごとにそれは少しずつ強くなり、最近に至っては震度5弱程度に達し、被害も出始めていた。
しかもこのまま放置しておけば地震はどんどん強くなり、毎日激震でも起ころうものなら、甚大な被害が予測されたのだ。
そこで政府は調査団を編成し、調査に乗り出すこととなった。
その調査団は、地震学者はもとより、さまざまな分野の専門家で構成されていた。
実はこの地震の震源地は、北極付近だった。
それはこれまでの膨大な地震のデータから分かっていたし、それが北極海の海底付近であるということも判明していたのだった。
そして調査団は船で、その北極へ向け出発した。
地震は北へ行くほど強くなっていった。
もちろん毎回の地震で津波も発生していたし、それも北へ行くほど高い津波となっていた。
しかし彼らが乗っていたのは大型の船だったので、とりあえず津波で船が転覆したり、沈んだりする恐れはなかった。
それからしばらくして、彼らの船は北極海に到達した。
そしてこれまで船から行われた詳細な調査の結果、震源の場所もほぼ特定されていた。
それは北極点のやや南だった。
そこで彼らの船はその地点へと向かい、その海域に達した後、船を係留し、早速地震の調査を開始した。
まず、船からの超音波探査を行った。
すると探査の結果、海底を南北に走る、巨大な「シャフト」のようなものが発見された。
画像からは、そのシャフトの直径は数十メートルと予測され、それは南方へ延々と続き、北は北極点でどん詰まりになっていた。
(もちろん天動説の世界だから、北極点より北に「世界」はないのだ!)
それから彼らは、船に搭載してあった小型潜水艇に乗り換え、海底にある、そのシャフトの調査を始めることとなった。
潜水艇が海中を進んで行くと、超音波探査で捉える事の出来た、その巨大なシャフトが、潜水艇の操縦席からもはっきりと見え始めた。
それはやはり途方もなく巨大なシャフトで、それが海底にある、やはり巨大な「コロ」のような物の上に乗っていた。
そして彼らがつぶさにそれを観察していると、そのシャフトはコロの上で一緒にゆっくりと回転していることが分かった。
何というかコロが回転し、それに導かれるようにシャフトが回転しているのだ。
そして観察の結果、シャフトの回転の周期は24時間に1回という事も判明した。
それから潜水艇の休憩室で、調査団の専門家たちは、国を出る時に差し入れされていた缶コーヒーのジョージアなんかを飲みながら、それについて議論した。
「もしかしてこのシャフトは、天球の回転と密接な関係あるのでは?」
(繰り返すが、ここは天動説の世界なのだ!)
「おそらくこの巨大なシャフトは、天球が回るための軸なのでしょう」
「なるほど。24時間に一回転している訳ですからね」
「それじゃ、その下のコロが、シャフトを駆動しているのでしょうか?」
「おそらくこれによって、天球が回転しているのでしょうね」
それから彼らは、そのシャフトの状態をさらに詳しく観察するため、潜水艇を動かし、シャフトの周囲を一周した。
するとそのシャフトに一か所、とても大きな傷があることが判明した。
それは途方も無く重大な発見だった!
それから彼らは再びジョージアを飲みながら…
「おそらく、このシャフトの傷がコロと接するときに、激しい振動が起こるのでしょうね」
「そしてシャフトは、24時間で一回転する」
「そうか! それがきっと地震の原因で、そして24時間に一度起こることも説明が付く訳だ!」
「しかし地震が、回を重ねるごとに大きくなっているのは?」
「ゴトンゴトンと揺れるたびに、おそらくシャフトの傷が深くなっているのでしょう」
「このままじゃ、毎日激震が起こることにもなりかねません」
「それでは甚大な被害が避けられません」
「困りましたね」
「それじゃ対策は、一体どうすればいいのでしょう?」
「それは…」
「対策…」
「うーん…」
それからややあって、その中の一人が意を決したように、こう切り出した。
「対策は…、やはりこのシャフトを新品に交換するしかないでしょう」
「だけどこれが、天球が回る為の軸ならば…」
「シャフトはおそらく、南極まで続いているでしょうね」
「南極までですか…」
「天球を貫いているのであれば」
「そしてそれを交換…」
「しばらくは、天球の回転を止めなければいけませんし」
「すると太陽や月や星の運動も止まる事になりますね」
「人々の生活への、重大なる影響は避けられますまい」
「しかも問題は、これほど大きなシャフトをどこで建造して、どうやって交換するかです」
「これは人類にとって、まさに歴史的な大工事になるでしょう」