タイムママチャリ2

文字数 2,490文字

 1からの続き

     2
 それは自転車をベースに作られたものだった。といっても、彼のサイクリング用の自転車ではなく、それはママチャリだった。何故にママチャリにしたかは、彼なりの考えがあったのだけど。
 ただし、自転車をタイムマシンに改造するという発想自体は、やはり彼がサイクリングを好むことと無関係ではなかったし、後で述べるが、ベースをママチャリにしたのには、少しばかり理由があった。
 それはともかく、実は長年の研究で、彼はタイムトリップのためのメカニズムを、完全に解明していたし、それを実現するためのユニットを考案した。これはタイムトリップを行うための心臓部とも言えた。
 そしてそのユニットは改良に改良を重ね、超小型化と消費電力の最小化を実現した。
 それは数々の電子部品をケースに詰めたようなもので、大容量のリチウムイオン電池も取り付けてあった。
 そして大変コンパクトであるため、電池も合わせ、それはママチャリのフロントのカゴの、半分ほどのスペースしか必要としなかった。
 それからアンテナだ。実は彼が考案したタイムトリップは、そのアンテナから特殊な電磁波を発生し、それにより、自転車及び乗員は時を超えることが出来るのだ。そしてそのアンテナは、自転車のフレームに沿うように張りめぐらされた。
 ともあれ、念願のタイムトリップが可能なママチャリが、ここに完成したのである。
 ところで彼は、タイムマシンとは一体何をベースに作るべきかを、いろいろと思案していた。そしてそれは、移動が可能な物が望ましいと考えた。
 例えば家の中に固定されたものだと、過去や未来へ行ったときに、その家はもはや存在しないかもしれない。例えば遠い未来において、その家はすでに取り壊され、マンションになっているかも知れない。それでは非常にややこしいことになる。
 だから屋外で移動が可能なものがいいのだ。移動が可能であれば、タイムトリップした先での交通手段も確保できるわけだし。
 だけど自動車やバイクなどでは、タイムトリップした先では合法的に走れない。車検が切れていたりするからだ。
 そう考えると自転車は最高だ。移動が可能で、しかもいついかなる時でも、きちんと整備され、ブレーキも着いていれば、よほどの時代でもなければ合法的に走行可能だ。
 そのような考察の末、彼はママチャリをタイムマシンに改造することにしたのである。
 ただし、タイムマシン作動には一定の条件が必要だった。彼の計算によると、ママチャリが時速8キロとなったときにのみ、タイムトリップが可能となるのである。
 だけどタイムトリップをした場合、当然、トリップした先の道路状況は不明である。しかも時速8キロで走行中である。
 だから、例えばまだその道路が完成していなければ、山中に衝突してしまうかも知れない。橋が架かっていなければ、川に落ちてしまうかもしれない。
 つまりその時代に、確実にその道路が存在する必要があったのだ。
 だけどそれだけではない。仮に道路が存在したとしても、そこに車が駐車しているかも知れない。人が道路を横断しているかもしれない。とにかくそこに何があるか分からないのだ。
 だからそんな状況でのタイムトリップなど、たとえ時速8キロのママチャリとはいえ、それなりに危険である。
 ところで彼の研究によると、タイムトリップとは、異なる時間の流れる、二つの時空の境界を通過することなのである。つまりタイムトリップとは、ママチャリがその境界を時速8キロで通過することなのだ。
 そこで彼は、自動車に装備してある自動ブレーキのセンサーを、ママチャリの一番先端に取り付けた。そしてそうすることにより、タイムトリップを始めたママチャリのセンサーは、真っ先にその境界を通過する。
 すなわち境界の向こう側へ最初に達したセンサーが、そこに障害物を感知した際には、その電気信号は光の速さで、タイムトリップを制御するユニットへ伝えられ、瞬間的にタイムトリップそのものを中止するように設定したのである。
 そして実は、彼は自宅から程近い場所にある、干拓地の堤防の道をタイムトリップのために使っていた。それは長い直線で、過去も現在も、そしておそらく未来にも、確実に存在すると考えられたし、しかもそこは交通量の極端に少ない場所だったのだ。
 だから彼がその後行なったタイムトリップに際しても、前述の衝突防止センサーが作動することは、ほぼ皆無だったのだ。
 いずれにしても、移動先が危険であれば、タイムトリップは直ちに中止されるのだ。そして中止されれば、そのまま元の時代を走るだけだ。
 それから彼は、ママチャリのハンドルに8センチ四方ほどのサイズの、キーパッドとディスプレイを取り付けた。つまりこれで移動時刻を設定すれば、そしてママチャリを時速8キロまで加速すれば、タイムトリップが可能なのである。
 こうして出来上がったママチャリは、フロントのカゴにタイムトリップを制御するユニットの箱が載っていて、あとはフレームへ伸びるアンテナ、そしてハンドルにキーパッドとディスプレイを搭載したものだった。
 だからぱっと目には、フロントのカゴに、少しばかりの荷物を積んだママチャリそのものという感じだった。
 かくしてめでたく、一見普通のママチャリ、だけど実はタイムマシンという代物が完成となった。もちろん彼は、短時間のタイムトリップでの予備実験を繰り返し、その作動も確認した。
 そして彼は、ママチャリをタイムマシンに改造するための部品一式を、別途にあと2台分用意した。それらはフロントのカゴの上半分と、別途、後ろの荷台に付けたカゴに搭載した。
 つまり彼は、最終的にはタイムトリップが可能な、合計3台のママチャリを作るつもりだったのだ。それはともかく、それから彼は過去を目指した。
 彼はそのママチャリで、かつて彼がサイクリング用の自転車を買った1978年の某日へとタイムトリップしたのだ。
 そしてタイムトリップ後、1978年のその堤防の道にたどり着いた彼は、早速、当時の自分の家へと向かった。

 3へ続く
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