鍋定食2

文字数 850文字

 鍋定食ではこの前酷い目に遭った。命からがら逃げだした。
 今度こそまともな鍋定食を食おう! 
 それにだんだん寒くなってきたし、やっぱり鍋定食悪くないかも。
 で、鍋と言えば寄せ鍋なら豚ばら薄切り肉に白菜に油揚げ。
 すき焼き鍋なら牛すきやき肉に長ネギに三つ葉にしめじにえのきだけ。
 で、ぴりからキムチ鍋ならやっぱり豚バラ薄切り肉じゃがいもにたまねぎにニラそしてしいたけ。
 で、ここの鍋定食は一体どんな鍋なんだろう♪)
 おれは勝手に妄想し、妄想が暴走し、で、期待に胸を膨らませ、よだれをたらしながら店員を呼び、早速その「鍋定食」を注文した。

 待っている間も鍋のことで頭がいっぱいになり、盛大によだれがでてきた。
 で、しばらくすると、店員が持ってきた。
「お待たせ致しました。鍋定食で御座います」
「あれ? これって、空っぽの鍋と、ごはんと、味噌汁だけじゃん。で、鍋、空っぽ!」
「当店自慢のこの鍋定食では、この鍋がメインディッシュで御座います。この鍋は川崎製鉄製の鋼材を使用し、特殊な焼入れを施し、その上手間の掛かる、特殊な鍛造仕上げとなっておりますので、歯ごたえは抜群で御座います」
「歯ごたえ? ここ、鋼鉄製の鍋の?」
「左様で御座います」
「鋼鉄の鍋の、歯ごたえ…」
「はい。そして鍛造後に定番のソルト焼入れを施しておりますので、さらにさらに歯ごたえは抜群で御座います」
「鋼鉄製で鍛造で、そそそ…」
「ソルト焼入れで御座います。精密な金属加工では定番の処理法で御座います」
「それで歯ごたえ…」
「で、ソースといたしましては、この鉱物油をおかけになると、さらにおいしく頂けます。モリブデン入りで、これはエンジンオイルで定評のあるカストロール社製で御座います」
「鋼鉄の鍋に、エンジンオイルで定評のあるかかかか、カストロールの鉱物油をかける…」
「左様で御座います。しかもモリブデン入りで御座います」
「僕がそれを…、食べる?」
「はい!」
「あわわわわ…」
「あの…、お客様、もしかして、鋼鉄は、お口に合いませんでしたでしょうか?」
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