公衆トイレの隣にあるレストランβ

文字数 1,131文字

 俺には行きつけのラーメン屋があった。
 麺のこしとつるつる感、スープのとろとろ感とコク。
 そして焼豚!
 それはもう絶品だった。

 しかもその絶妙な味は、そのラーメン屋の店主にしか絶対に出せなかった。
 奥さんが作っても、後継ぎの息子さんが作っても、どうしても微妙に違うのだ。

 とはいえ、他の客たちは俺ほど味にこだわりがなく、だから奥さんや息子さんが作ったラーメンでも「結構おいしい」と食べていた。

 だけど俺は店主の作ったラーメンが絶対的に好きだったので、俺は店主にそう話し、値段は倍でもいいから店主に作って欲しいと伝え、もちろん店主は俺が店に行けば喜んで俺のためにラーメンを作ってくれた。
 もちろん同じ値段で。


 そんなある日。
 俺はその店へ行き、すると店主がご機嫌でラーメンを持ってきて、
「いつも焼き豚5枚のところ、今日は焼き豚7枚にしときましたよ。ラッキーセブンですな。わっはっは」と言った。

 それでその焼き豚ラッキーセブンのラーメンを食べ終え、会計をしようとレジに行ったそのとき、突然、店主が胸を抑えて苦しみ始めた。

 それから大騒ぎになり、救急車を呼び、店主は救急病院に搬送されたが、その日の夜中、残念ながら店主は息を引き取った。
 急性の心筋梗塞だったらしい。

 翌日、そのことを伝え聞いた俺は絶望した。
 もうあのラーメンは食べられない!
 二度と食べられない。
 最後のラーメンがラッキーセブンだったのか。
 店主があの世に旅立つ餞別に、俺にラッキーセブンのラーメンを…

 俺は絶望した。


 それから俺は意気消沈し、そして街をとぼとぼ歩いていたら、偶然、隣にレストランのある、小奇麗な公衆トイレを見かけた。

 それで、たまたまもようしてきた俺はそのトイレで用を足し、それから何となくそのレストランが目に入り、それで気まぐれにそのレストランに入った。

 それからメニューを見るとラーメンもあった。
 レストランといってもいろんなものが食えるらしかった。

 それで俺は、旨いラーメンを求め、食い物屋を開拓しようとも思っていたところだったし、早速そのラーメンを注文した。

 するとそのレストランの店主は、
「うちはいろんなメニューがありますが、いつでもそれが出せるとは限らないのです。だけどたった今、とてもいいラーメンが入ったのです。だからあなたはとてもラッキーですよ」
と言って、それからにやにやしながらラーメンを持ってきた。

 そしてそのラーメンを見て、俺はぶったまげた。
 あのラーメン屋の店主が最後に作ったラーメンと瓜二つだったのだ。
 焼き豚7枚の、ラッキーセブンの、そしてもちろん味も…


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