10万年後の最終処分場の件

文字数 1,218文字

「こんにちは。私は原子力省の者です」
「はて、原子力省のお方が、私にどのような御用で?」
「実は今般先生の開発された、バイオメモリーとクローンの技術のことで…」
「私がそんなものを開発しているということを、どうしてご存知なのですか?」
「一応我々は国家機関の者ですので、そのへんの諜報活動については…」
「そうですか。まああなた方に知られてしまったのなら仕方がありませんな。で、バイオメモリーとクローンをどのように利用されたいと?」
「最終処分場の件です」
「原子力発電所の、核廃棄物の最終処分場のことですか?」
「そうです」
「しかし最終処分場と、私のバイオメモリーと、クローンと、どのような関係があるのですか?」
「それは将来建設予定の最終処分場の維持管理法を未来に残すための手段として、先生の開発された、バイオメモリーとクローンの技術を活用させていただきたいと考えておるところです」
「と、いいますと?」
「すなわち、我々が養成した最終処分場の技術者を、将来にわたり確実に確保するため、その知識、技術を有した人間から、先生の開発されたバイオメモリーの技術を用い、先生のクローンの技術で作った人間へと伝承してゆき、これをもって、将来にわたる人材確保に資すると、こういう計画なのです」
「どうもお話がまわりくどいうえに役人くさくてかないませんが、要するに維持管理法を未来に残すためということですな」
「そうです。現在日本国内の原子力発電所には、二万五千体の使用済み核燃料があります。これは『高レベル放射性廃棄物』と言われます」
「はい。それは存じております。高レベル放射性廃棄物は、十数秒で人間の致死量に達するほどの大変な放射能を出します。だから完全封印のうえ、厳重なる管理が必要ですね。しかもそれが膨大な量になっている」
「そうです。この高レベル放射性廃棄物は、放射線を出しながら原子核がゆっくりと、他の安定した原子に変わることで、徐々に放射能レベルが下がっていきますが、人体に影響のない程度にまでに放射能レベルが下がるには、10万年ほどかかります」
「10万年ですね。それも存じております。そして、その十万年間最終処分場を管理するために、私のバイオメモリーとクローンの技術を使って、管理できる人材を確保したいと、こういうことですかね?」
「おっしゃるとおりです」
「う~ん。しかし10万年前にネアンデルタール人がアフリカ大陸を出て各地に移住を開始して、5万年前にクロマニョン人が登場して、3万年前に、彼らによってネアンデルタール人は絶滅したのです。ですから数万年後に新しい人類が登場し、7万年後くらいに我らが人類が絶滅しない保証など全くありません。そのとき地球は別の人類か、はたまた人類とは似ても似つかない生物が地球を支配しているのかも知れません。だからそんな事態を想定すれば、私のバイオメモリーや、クローンの技術が10万年後も役に立つ保障など、どこにもありませんよ」

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