トリック特急、長崎から京都へ  斎藤栄

文字数 3,500文字

長崎から京都へ向かう寝台特急の中で、乗り合わせた女性から身辺の警護を依頼された私立探偵は、奇妙な男たちを目撃した。男たちがその女をつけ狙っているという。探偵は、一晩中、男たちを見張っていた。ところが、そのころ、京都で無理心中に見せかけた殺人事件が起こった。その容疑者が、探偵が見張っていた男たちだったのだ。この不可解な事件の背景には、銀行業界の策謀が潜んでいた!


(「実業之日本社」より)

https://www.j-n.co.jp/books/?goods_code=978-4-408-60358-2

寝台列車(ブルートレイン)の運行終了のニュースは、これも一つの時代の終わりなのかと思った記憶がある。

寝台列車の終了はぼくが生まれるよりも前の話だから、よくわかんないよ。

……そうか。

君が生まれた頃は、寝台列車が高級路線で生まれ変わりつつあった頃だったかな?

大人気、っていうのはニュースで見たかも。

車窓の風景を楽しみつつ、ごろんと横にもなれたりするのがぼくとしては寝台列車のいいところだと思ってる。

それに、列車の旅にはどこか旅情をそそるものがある気がしているよ。

しかし、昨今のは高級路線すぎて手が出ない。

う~ん。あれはきっと、シニア層の退職金を当てにしている列車……なんじゃないかねえ。

ぼくら世代にはまるで期待できない退職金だが、彼らは結構……もらったんじゃないだろうか。(推測だけど)

そういえば圭さんって、最初の会社を辞めた時にはいくらの退職金をもらったの?
……2万円だった。

へ?

まあ、あっただけマシ。
それじゃ寝台列車の旅は……夢のまた夢だねえ。
でも、いいんだよ。ぼくはブルートレインには乗ったことがあるからね。
え? いつ?

小学校に上がる前だったかねえ。

そういえば、新幹線に乗ったのもその時が初めてだった。もしかしたらまだ、国鉄時代だったかも。

……へえ。

思い出せば8ミリのビデオカメラを父親が買ったばかりでね、使うのが楽しかった頃だったと思うよ。

あの日も発車のベルが鳴ったというのにホームでカメラを回し続けていたもんだから、「行っちゃうよぉぉぉお!」と焦るぼくがギャン泣きしている映像が残されている。はず。

何それ、可愛い。

いやだよ、黒歴史だ。

でも今にして思うと、普通の電車よりも発車までの余裕があったのかもしれないね。そうじゃないと絶対に父親はホームに取り残されたはずだもの。

初めての新幹線はどうだったの?
乗って以降の記憶がまーーーーったく、ないんだな。
……は?

いやいや、勘弁してよ。ぼくはまだ就学前だよ。

はしゃぐだけはしゃいで乗り物に乗ったらそのままストンと眠りに落ちる時代だよ。

……まあ、そうか。

時間が時間で、車窓の風景が楽しいわけでもなかったしね。

ああ、外は真っ暗だったのね?

うん。気が付いたら大阪で、母親に起こされた。そこで乗り変えたのがブルートレイン。

もしかして、この作品に出てくる「あかつき」?

……かどうかは何とも言えないねえ。

作中の「あかつき」は京都と長崎を結んでいるし、ぼくが乗ったブルートレインも新大阪から乗って終点は長崎だったから、そうである気はするが。

ああ、そういえば。

その長崎旅行の時に……島原だと思うのだが、道路の横に水路があって、色とりどりの鯉が優雅に泳いでいたのが記憶にあるな。

……え? 鯉?
こら、よだれを出さない!
鯉と聞いたからには襲いたく、なるのがぼくら猫のサガってもんだ。
長崎の猫は、君とは違っておとなしいんじゃない?
にゃん?
いや、何でもない(汗
ってか、大阪で乗り換えてから唐突に長崎まで話が飛んだよ。初めてのブルートレインはどんな感じだったのさ。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
もう、三点リーダーで文字数稼ぐの禁止!
だって、だって! 新幹線でさえ眠気に勝てなかったぼくが、それよりも遅い時間に乗り込んだブルートレインのことを覚えていると思うかい?
ない!
だったら訊くなよ。
それでも何か、思い出があるかなーって気を利かせたんじゃない。

要らん気の回しようだな、おい。


ぷん!

お、怒らないで(汗

まあ、思い出というか、なんというか、その後も汐留と小倉を結んだカートレインには何度か乗る機会があったのだが、一貫して洗面が使いにくいなと感じたのが、思い出と言えば思い出かな。

洗面?

蛇口を回している間は水が出るんだけど、手を離すと途端に止まっちゃってさ。

節水の意図もあってかもしれないけど、両手を使って顔を洗う、ということはできなくて苦労した。

そういえば、電車の水ってどこに積んでいるんだろうね。使い切ったら出なくなるんだよね?

そうなるとトイレが悲惨かも。

嘘かホントか、そのトイレは線路に垂れ流しだったという噂があるなあ。
……沿線に住宅があったら大迷惑じゃん。

だから、噂だってば。

飛行機もトイレは上空からばらまいてた、なんて話も聞くよね?

それも嫌だけど……?

垂れ流しでも納得がいくのは船くらいかねえ(笑)

その都市伝説の真偽のほどはともあれ、ずーっと揺れる車内で過ごしたあとは、体が揺れるようにふわふわしていたのも思い出だ。

なるほど。

ではそろそろ、本題に入ろうよ。

…………。

…………。

…………。

…………。
…………。
ちょっと!

い、いやあ、ねえ……。

なんかさ、今日は異様に前置きが長いとは思ったんだけど、まさかこのまま中身に入らず終わらせる気じゃ、ないんだよね?
…………。
ダメだからね!
しゅん。
ほらほら!

本日の読書は『トリック特急、長崎から京都へ』。あらすじについては冒頭のジョイノベルの宣伝文句の通り。

とはいえ、なんかね、若干文章に時代を感じたんだよね。

古臭いってこと?
それもあるけど、昭和というか、平成の前期に活躍した大御所作家たちの書くミステリー小説が、こんな雰囲気かもしているな、というか。
ふーん。

なんだよその気のない返事は。

あと、最初に言っておくけど、ぼくはこの本に誤植を見つけてしまったよ。手元にあるのが2006年1月25日の初版本なのだが、それ以前に2001年にこの作品は勁文社から出ているらしい。

……勁文社も、もう存在しない出版社だよね。
時代って怖い!(汗)
まあ、ともあれ、勁文社時代から誤植があったのか、実業之日本社に移って誤植が入り込んでしまったのか、そのあたりは気になるところだな。
でしょ。そしてその細かいところまで気になってしまうくらい、21世紀感のない作風だなあ、と思いながらの読書だった。
21世紀感って、なんだろうか?(笑)

20世紀の文章でも宮部みゆきとかはだいぶもう、ミステリーでも新しい書き方をしていたと思うよ。事件やトリックに加えて、登場人物のキャラが立つ感じといったらいい?

あと、道尾秀介の『背の眼』を読むに至って、自分はこのくらいの文章じゃないと読めないな、と、思った記憶がある。

そんなこと言いながら、十津川シリーズ大好きなくせに。
ドラマになるとどうして亀さんがあんなにも年老いるのか!(笑)
小説の亀さん読むと、「誰?」ってなるよね。
でも、西村京太郎なら『愛と悲しみの墓標』を置いておこうかな。
主役が十津川警部じゃない、けど!
だからこそ、あれ、いいんだよ。内田康夫なら『浅見光彦殺人事件』か?
ダメだよ、浅見光彦シリーズをある程度読んだ読者にしかお勧めできない作品じゃない。
「これ、書いてみたかったんだ♡」と、作者自身が巻末でてへぺろしていたのがインパクト大(笑)
(そんな書き方ではなかったと思うけど)森村誠一なら『人間の証明』なのかな?
それもいいけど、『星の陣』が好きだな。そろそろ最終回が見えてきた『銀狼ブラッドボーン』もそうだけど、じーさんが戦っててしかも強いとなると、やはり、カッコいい。
……とまあ、挙げていくとキリはないか。
さて、そんなこんなで本書の中身に移るとだね、電車内のトリックは古典的であまりに簡単だった。
ぼく的には主役の尾瀬が許しがたい。
あまりにポンコツすぎるな、彼は。それも好感度が低い方のポンコツ。
携帯電話落としたくだりから怪しさムンムンなのにテンプレのように引っかかる。しかも彼女がいる身で何をやってるか、という気持ち。
探偵事務所の面々も活躍しているとは言いがたい。
でも、江戸川所長が入れた尾瀬に対するツッコミには笑ったよ。全読者を代表してツッコミいれてくれたと思う。
しかしそのツッコミ入れるならなぜ事件のからくりに気付かないか、というさらなるツッコミを読者からもらうことに、なるのだが(笑)
……確かに。

作中「普通に考えてオカシイだろう」というのがちょいちょいあったね。

まあ、でも、作品としてはこんなもんか。

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