天狗の供物と夜叉の褥  山田沙夜

文字数 1,002文字

 禁忌として連綿と受け継がれ、語り継がれてきた日本の因襲 × SF


 この、ある意味で異質な組み合わせが違和感なく、当たり前のようにそこにあり、理由などいらぬそういうものである、という空気を纏わせながら紡がれる──沙夜さんのSF作品を読むたびに、古くて懐かしく、新しい感覚にいつもとらわれます。

 天狗に攫われ、夜叉に食われる。

 ある種、古くからある「神隠し」の正体が(いや、それもまた想像の域を出ないものの)、空間転移装置に微粒子分解装置に化ける。なるほど、これは、と、唸らざるを得ません。

 そしてその存在を、装置が稼働しているその波長を、一部の限られた人だけとはいえ、感じ取ることができる。

 死者となってまだ(生きていても一時期肉体から精神が分離した恋人も含め)、生身の体を持つ生者のために働きかけることができる。

 人間の精神にはまだまだ、現代科学では証明の難しい神秘が隠されているように思います。


 それにしても、《禁忌》に土足で踏み込んだ研究者たちの、罰当たりといいますか、怖いもの知らずといいますか。この物語では結果的に不幸な終わりとなりましたが、しかし現代科学が宗教的タブーに挑んで発展してきた歴史があることも否定できず、様々な意味で多くの犠牲の上に今があることも否定できない以上、彼女たちの行動を「愚行」のひとことで片付けることも難しく、そこに関してはちょっともどかしい気持ちになっています。

(とはいえ、初っ端のあの態度は正直、ムカっとなりましたが。人としてあれは、ダメですよね)

 ……と、そんなこんなで序盤のおどろおどろしさに、中盤以降の迫真のシーン。どうなっちゃうの、無事に助かるの、と、ドキドキしながら読みました。ラストでほっとし、少ししんみりとした余韻を残すのも好なところです。

 そして誰が何の意図をもってこの地に降り立ち、この装置を稼働させ続けたのか、それは今なお意味を持っているのか、それともすでに置き忘れ存在さえ顧みられていなかったのか、さらには唐突な眠りから目覚め、一体どこに行ってしまったのか。たくさんの謎を残したまま結末を迎えたこの物語、いつかどこか、別の物語の中ででもいいので、解答編があると嬉しかったりします。

 楽しませていただきました。


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