猫弁と透明人間  大山淳子

文字数 2,826文字

天才弁護士・百瀬のもとに、一通のメールが届いた。「はじめておたよりします。ぼくはタイハクオウムが心配で、昼も眠れません。 透明人間より」

そのメールは法廷に立たずに事件を解決するゴースト弁護士、沢村から送られたものだった。ひきこもりで人と話せない沢村は、自らが解決した事件の結末が気になり、オウムの行く末を百瀬に託す。

この依頼人はきっと困っているはずだ――。百瀬はタイハクオウムを救い出し、メールを手がかりに透明人間の正体を探る。沢村が取り組む医療ミス問題に不審な点を発見した百瀬は、奇跡の弁護で法廷の流れを逆転させる。

果たして百瀬は、オウムを、ゴースト弁護士を、患者を、救うことができるのか?


(講談社BOOK倶楽部より引用)

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000187517


通算3作品目の『猫弁』になったわけだけど。
3作品目にしてようやく面白いと思った……と言ったら講談社に怒られてしまうだろうか。
…………。
いや、何か言って! せめて罵倒して!
まあ、圭さんがここから永久追放されてもぼくは平気の平左だし。どうだっていいし。
くすん。
で、前2作品についてコメントすることは?
えーっと……最初に読んだのが『猫弁と少女探偵』。読んでハテナが多くて……。
ハテナ?
あれ? 順に読まないと辻妻合わない系? となり……。
まあこれは、『三毛猫ホームズ』シリーズみたいにどこから切っても金太郎……みたいにはスッキリいかない作品かもしれない。
金太郎飴に例える君のセンスを疑うよ?
は? 圭さんほどひどくはないよね?
うぅ……。
はいはい。それで? 1作品目の『猫弁 天才百瀬とやっかいな依頼人たち』を読んだわけだね?
うん。そして、ますますよくわからなくなった。
……は?
そもそも主人公の猫弁がね、猫弁になるに至るきっかけがあるんだけどね……。
猫屋敷の話だよね?

そうそう。


そういう大事な話、きっかけの話ってのは、得てしてシリーズの1回目で取り上げられるものだったりしない?


でも、この作品は違うんだ。もう、そういうのを大前提で物語が進んでいってしまう。


むしろ、猫屋敷? 知ってて当然でしょ? くらいの空気をかもす。だから、知らないって……言い出しにくい。

いやいや、書いてないんだからわかんなくて当然じゃん。引け目を感じることなんて何もないと思うけど?
いやあ、何か違うんだよ。小学校から仲のいい2人の間に割り込んだ中学からの知り合いが、2人が話す小学校の思い出についていけないんだけど相槌打って微笑んでとりあえず空気は乱さないように気を付けている、みたいな部分があるんだよね、この作品。
ふうん。
あとね、弁護士が主人公の物語なんだけど、事件があるようで、ない。そのところにも最初は乗り切れなくてね。
は? 事件があるようで、ない?
クライアントがいてさ、依頼があて調査があって解決があってめでたしめでたしがある、なんて型通りの物語を期待しているとちょっと肩透かしを食らってしまうというか?
……ふうん。
ねえ灰猫。さっきから君、気のない返事しすぎじゃない?
んー、別にそれが? って思うから。
ひん!
でも3作目を読んでようやく面白いと思ったわけなんでしょ? それはどうしてだったの?
これはホームドラマなんだな、ということに唐突に気付いたというか。
ホームドラマ?

主人公がいて、恋人がいて、仕事仲間がいて。ぼくらが普段過ごすような日常の中に、ゲスト的な事案がある。

これはそういう話なんだ。


……なるほど。

ゲスト的な事案だって、風景に溶け込んでしまう。とびぬけて目立つほどじゃない。そういうアットホームさに居心地の良さを感じ、訥々としたと表現すべきか飄々としたと表現すべきかはともあれ、この独特の文体に慣れることができれば、あとはどっぷりとこの世界に浸るだけで物語が楽しめる。

そんな感想に、3作目でようやく到達した。

登場する人物ひとりひとりが、しっかりとアイデンティティーと言うか、芯を持っていると思うんだよね。
そうだね。これもこの作品の特徴だよね。そして、だからこそこの作品はリアルからかけ離れた印象を受ける。
リアルからかけ離れている?
「これは紛れもないフィクションなのです!」と、見事に割り切っていると思うんだ。それこそ赤川次郎の『三毛猫ホームズ』的に。
……つまり?

登場人物たちは、創作者の手によってそれぞれに特徴を割り当てられ役割が決められている。そういった調和がこの世界にはある。


予定調和なんだよ。


人間の特徴を切り刻んで分解して、ぞれぞれの人格を作り上げてある。まさに創作的人格。


名言のオンパレードなのもそういうことなのかな?

そう。登場人物たちが口を開けば名言を吐き出しまき散らすのも、彼らが役割の上に忠実に動いているから、と言えるかもしれない。

そして、彼らがどれほど良いことを言っても、残念なくらい記憶に残らないのもこの作品の特徴だと思う。

それは単に圭さんの脳細胞の問題でしょう。

い、言うよね(汗 そういう問題ももちろんあるよ。

でも、この作品は金言をまき散らしすぎているんだとぼくは思う。

ん?

泥の中に黄金を埋めておけば、発掘(読み進める)しているうちにそれに行き当たって「おお」と感動し共鳴もするかもしれない。

けれども、右見ても左見ても金塊の山だったら、何が特にありがたいものなのかわからなくなると思わない?


でももしかしたら、それでいいと作者がこの作品については思っているのかもしれないよね。深いことを言っている割に、軽いんだもの。

全体的に読みやすいんだよね。さらっと読めるから。
そして、記憶にも残らない。
いや、だからそれは……!

いやいや灰猫。

ぼくらはレストランで隣に座った女子たちのお喋りを聞いているだけの存在なんだよ。

ん?

話は区切られ細分化しパーツ化され、Aのことを話していたと思ったらBになり、Cに行ったと思ったらまたBになり、気づくとAのことを喋っている。

(しゅ)としては何を話しているかわからないけど、なんだか妙におもしろい。そんな感じ。


そして、店を出たら彼女たちが何を喋っていたかなんて、忘れてしまう。

場を提供しているってこと?

その瞬間、瞬間を楽しむひとときのエンターテイメントの舞台を。

それでも、ぼくとしては百瀬と亜子の行く末が気になるけどね。
亜子さん、いくらなんでもヤキモチ焼きすぎだよ。笑っちゃう。
すれ違い方がまた、可笑しい。
そういえば、『少女探偵』では靴を履いていたけど、『透明人間』ではまだプレゼントしていないね。
エンゲージシューズ……(笑) もう少し読み進めないとそのエピソードは拝めないのかも。
でも圭さん、主人公の発想に笑ってるけどリングよりシューズの方が断然良いって思ってるでしょ?

リングは実際、将来に向けては何の役にも立たないからねえ・・・(遠い目

実用的な靴の方がぼくもいいんじゃないかと思った。賛同したい。

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