トリプルA 小説 格付会社(上)  黒木亮

文字数 2,771文字

市場を弄ぶ『魔性の記号』の正体とは

証券化(サブプライム)バブルを演出し、金融危機の『戦犯』と目される格付会社。民間企業の「意見の表明」にすぎない格付記号を、なぜ市場は盲信し、権威にまつりあげたのか。金融業界のタブーに切り込み、迷宮の扉をこじ開けた、待望の最新作!


(日経BPより引用)

https://www.nikkeibp.co.jp/atclpubmkt/book/10/P47890/

この作品、圭さん的にはドツボでしょ?
おや、わかるかい? 昔読んだ『ユグドラジルの覇者』もニヤニヤしながら読んだけど、こっちはさらにニヤニヤものだった。
『ユグドラジルの覇者』は、電子商取引の話だったよね。
冒頭でバーゼルが出てくるところがポイント高かった。

ちょうどその当時、ぼくは取締役会にかける議案の絡みで「バーゼルⅢをもう少し読みこんで来い」と上司に言われてあちこち資料を調べ回っていたときだったから、たまたま手に取った『ユグドラジルの覇者』にその言葉を見つけた時は「おお! 解説あるのか⁈」と一瞬期待したんだよね。

まあ、蓋を開けたらあんまりバーゼル関係なかったけど。(ははは)
あれ? でも取引の電子化まわりは、また別の切り口で圭さんの仕事に絡んでくるんじゃない?
なんだかんだとね。

バーセルからはさくりと外れたのにまた結局自分の仕事に関係あるネタが引っ張られていて、まあ、何にしてもあの小説は読みごたえがあった。

とはいえ内容の方は、私情のために世界を巻き込んだわけだし、冷静に考えると(たち)の悪い冗談みたいな感じだったよねえ……(笑)
『トリプルA』は?
冒頭でリーマン・ブラザーズが破綻する。この時点で胸熱。
ん? 圭さんってリーマンと何か関係があったっけ?
まあ、ぼくだってひとりのサラリーマン(・・・・)とし……
そういう氷点下の冗句は要らなーいっ
辛辣だなあ、おい。

冗談ではなくリーマンとはちょっとした関係が本当にあったんだよ。

うちの会社の新規事業を立ち上げる際にリーマンの人たちも協力してくれていたんだ。

そしていよいよリリースするぞ、という土壇場のタイミングでのあの報道だった。

え? それでどうしたの?

すったもんだの後に、別の証券会社がリーマンの事業を引き受けての案件継続になったんだよ。

ちなみにそれは、作中にあるバークレイズでは、ないんだな。
へえ。

昨日までリーマンの顔していた担当者が、次の日からその証券会社の顔して何食わぬ顔で現れて「まじかよ」となったのも今にしてみればいい思い出だよ。

証券会社の世界って、案外狭いのかもしれないね。

ちなみ小説は、リーマン・ショックの話なの?

今のところなんとも言えない。

序章でリーマンが倒れて、本編が始まったと思ったら日本のバブル期に時間が戻ったから。
格付の歴史って、日本の場合はここから始まるんだねえ。
バブルはすでに歴史の1場面なのか……。
これ、もしかして歴史書として使えるの?
虚実取り混ざっているから別で調べる必要はあると思うけど、バブル期に何が起きていたかを知る(よすが)としては十分機能していると思う。
主要登場人物の会社が名前を変えているから、そこが注意だね。

変えることでフィクションをアピールしているのだろうが、若干紛らわしいよ(笑)

まあ、それでもどこの会社を想定しているかは一目瞭然なんだけどね!

そこねー(笑)

さて、上巻を読む限りにおいては、注目人物は4人なのかなと思うよ。

主役はやはり、乾さん?
中堅どころの都銀から国内の格付会社に転職した彼ね。
転職の理由が涙なしには読めない……。
あれは過酷だよねえ。しかも冒頭で娘が死んだことが描かれているわけだし。

そんな彼は今のところ本書の主要テーマであろう「格付」に積極的には絡んできておらず、ここから後半でどのように存在感を示していくのか注目したい。
次が、水野女史。
結婚を機に邦銀を退職し、外資系の格付会社Mに転職、その会社を首になったのちに同じく外資系格付会社のSに転職。そうであるけどバリバリのキャリアウーマン……という感じはあまりないか。
彼女を通じてM社の内情がまるわかりになった感じだね。格付に関しては今のところ彼女を中心に回っている。
S社との違いもわかりやすい。

あと、M社については何やら不穏な気配がある。後半でそれがどう崩れていくのか楽しみだよ。
それと、内資の保険会社に勤めている沢野さん。
社内の格付担当者という位置づけの人物。格付会社を中心に回るこの小説からすると、外から格付を眺める立ち位置なんだろうか。
胃が痛いってずっと言っているのが、気になる。
あれはかなり心配。胃潰瘍? 胃癌? この胃の痛さがどう後半に続いていくのか……。
で、最後が三条氏。
リーマン倒壊の冒頭シーンでM社にいる記述があるのに、その後なかなか登場しない。というわけで上巻ではあまり活躍しないね。下巻で何かあるんだろうけど、彼の場合はなんとなくヴィラン的立ち位置の気がしなくもない(笑)
そんな感じで、役者は揃った状態で下巻に続くわけだけど、情感的な見どころはどこだったの?
まったくストーリーに関係ない部分ながら、上巻のラストで「旧姓」について触れているところが笑えるよ。要約すると「働く女性は旧姓使いがち」ってことでしょ?
そもそもさあ、みんなわかってないよ。結婚で姓を夫と妻のどちらに寄せるかは、法的には自由なんだよ? 妻の姓に夫が改姓したっていいんだからね?
この話題に対して真面目に触れるたびに「フェミニストが!」と、揶揄されてきたからな……。ここでは軽く流すとして、実際問題「婚姻」に伴う「姓の変更」は、思うよりも大変なんだよね。ちなみに、うちの会社では旧姓を通称として使い続ける人が全体の8割。

日本全体がどうだか知らないけど、うちでは旧姓を使うことが一般常識となっている。
継続性の問題は確かにあるんだよね。名前で覚えてもらっていることは、よくあるわけだしな。
働いていればなおのこと、そうなんだよね。このあたりは、改姓する側になってみないとわからないと思う。
ってか、待って。本当に上巻の注目は「旧姓」だけなの?
山一證券が倒れる工程がなかなかにスリリング。間違いなく上巻の華はそこだと思う。
そんな山一は圭さんの仕事には絡んでこないのかな?
なにぶんまだ、社会に出ておらんでな……(笑) その後倒れた長銀については、最初に就職した会社が関係していたよ。

ほう?

まあ、メインバンクだった長銀の破綻で資金繰りに窮して連鎖破綻したってだけのことだけど。

ぼくが就職したときは身売りが終わって財務体質も健全で、しかも驚くほどの右肩上がりの業績を上げていたんだけど……。

ど?

いや、まあ。ゲホッゲホッ……。
なんだか歯切れが悪いなあ……。
まあともあれ、下巻に続く!
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