靴に恋して  谷村志穂 野中柊 斎藤綾子 横森理香 狗飼恭子 山咲千里 甘糟りり

文字数 4,122文字

靴の数だけ、恋がある…

靴を買う、靴を履く、靴を脱ぐ。いまをときめく8人の作家たち−甘粕りり子、狗飼恭子、斎藤綾子、谷村志穂、野中柊、山咲千里、やまだないと(漫画)、横森理香−がスペイン映画『靴に恋して』にインスパイアされて綴った、靴にまつわる恋物語。


(AmazonJPより引用)

https://www.amazon.co.jp/dp/4789723623

ソニーマガジンズって、もう存在しないんだ?
恐ろしいね。これも新興出版社の運命なのかもしれないけど。
でも、日本にはたくさんの小さな出版社が存在するよね?
ぼく自身は基本的に出版社を気にして本を選ぶことはないけど、最後まで読み終えて末尾に書かれた出版社がまったく知らないところだった場合は、


「おや、ここは他にどんな本を出しているんだい?」


……と、気にはするよ。

出版社が潰れた場合は、その本の権利関係はどうなるんだろう?

契約によるのかもしれないけど、契約の相手がいなくなったのであれば出版権も無効なんじゃないのかな?
じゃ、他で出版してもいいんだ?
まあ、実情はわかんないけど、たぶんそうなんじゃない?
んーそれなら、ここにある作品たちも探したら別の出版社の本の中に納まっていたりするのかなあ?
探すなら自分で探しなよ? ぼくは手伝わないからね?
え? けち!
いやいや、ケチとかそういうことじゃないでしょうが。
むー!
拗ねたって知りません。

にゃあ!

あんまりごねると食後のちゅ~るあげないからな!
それはだめえ!

……もう! それで、本の中身の話だけどね。

8人の作家による8つの「靴」にまつわる物語。
最後の『「それは彼の靴」(やまだないと)』だけが漫画だね。
いやあ、これ、読んでてじわじわ効いてくるんだよ。じわじわ。

くるね! 「靴を片方しか履いていない男」という状況に対して、周囲がどう反応するのかというのがとても面白い。


ぼくだったらどうするかねえ?(笑)

まあ、ぼくだったら両方履かないよ。
君の場合は猫に戻れば服もいらないじゃないか。
そういうことじゃないし。
? どういうこと?

もう、わからずやー!

ひいん(汗


……え、ええっと、それでね、一番イミフだったのが『わたしと同じ靴(山咲千里)』。

あんまり深く考えちゃいけない系かもねえ、これ。

皮肉っているんだろうな、とは思うけどね。ある意味で社会風刺。

彼氏が二股かけていて、同じ靴を贈るってところはアルアルかなって感じはするけど。
配給された方の靴を燃やしてしまうのか、燃やさないのか、については?
思考停止した日本人の現在が垣間見えるようにも思ったけど? 「赤信号、みんなで渡れば怖くない」……的な?
そういうことなんだろうかねえ。東京だけがアメリカの州になる、というのもなかなかな皮肉かなとも思う。
東京以外に価値はないってことなの、これ?
うん。そういうことだと思うよ。
でもね、これによってこの作品が何を描きたかったのかな、は、いまひとつピンとこない。
この系統の小説にありがちな展開なんだよね。考えるな、感じろ、腑に落とすな、消化不良させておけ!
「好き」か「嫌い」かの二択を迫られた時に、迷わず圭さんが「嫌い」に振り切る作品だったことは確かかな?

作品としての質と、読み手の嗜好は別なんだって、だから。

それなら、一番好きなのは?

かなり迷うが、強いて挙げるなら『冷たい部屋(甘糟りり子)』かな。小さな勇気をもらえるよ。
ここに出てくる元夫はマジで腹立たしい。

いやでも、いるのよ。パートナーをアクセサリーとしか思っていないやつ。男女問わずいるから。

現実に存在するのはわかるけど、そういう人たちとはぼくは仲良くなれない……。

まあまあ(笑)

この作品の注目ポイントは、「プロの仕事とは何か」ってところでしょ?

恵理子の台詞が響くかも。「お客さんのニーズより自分のやりたいことばっかりわめいているあたしは、要するにプロじゃない」ってところ。
その次の香奈の台詞がいいんだよ。「お客様を新しい欲求に導いてあげるのもプロの仕事かもよ」
これって、ここのところ圭さんが某所で頻繁に目にしている創作論にも通じている気がしてる。

プロになっても自分の好きなものが書けるか書けないか論争だよね。どんな仕事だって消費者あって成立するものなのに、どうしてか小説家の卵たちは、小説家だけは例外(聖域)なんだと思っているみたいで、あれはどうにも不思議だねえ。


ぼくは正直、好きなものしか書きたくないんだったら、その人は一生プロにはなれないと思ってる。「独りよがり」が受け入れてもらえるほど世の中が甘いはずはない。

最近「ナントカ神話」って多いじゃない? 日本の安全神話、とか、そういうの。小説家という職業の幻想も同じように神話の世界に放り込んでいるだけのように見えるんだよね。ぼくは。

「神話」はイコール「リアルには存在しない」……なんだけどね。

まあ、そのくらいの夢を見ないと現実問題やってられないんだと思うよ、卵たちは。あとはあれだよね、そういうことを言っている作家の卵はだいたいぼくより若い人たちだよ。


ああ、その凝り固まった思考回路はちょっと青いな、もったいないな、って人が多い。

……だとすると、彼らもいつかは夢から目覚める、のかな?
目覚めた世界は案外、素晴らしいんだけどね。まあ、醒めた者がどれほどそれを説いたところで甘い夢にまどろむ者たちが耳を貸すはずもない。
さて、次はどの作品に行こうか。

順に行こうか。『赤い靴のソウル(谷村志穂)』

ソウルって「魂」のことかなと思ったら、韓国だった。
魂にも掛けている気はする。

ぼくはこの作品、すごい好きな表現があるんだ。

ん? どこ?
「ジョセフに会ってから、私の人生はカラフルになった。みんな何色かの悩みを抱えて……」ってところ。
色で表現するのが心地いいよね。
こういう表現をしてもらえると、悩みを抱えていることも悪いことじゃないなって思えてくる。
そしてこの作品はそういう、なにがしかを心に抱え込んだ人たちのふわりとした日常物語。
後半で「実は」があるけど、そういうことも含めて「それが世界のリアルよ?」って言われた気がした。
そうだね。次は『サイズ(野中柊)』
どんな理由があっても不倫は……。
これもう、ラスと3行がすべてって感じする。この3行のために他が存在するくらい、ラストが印象深い。
あとちょっと、エロかった。
何重にもオブラートに包んだエロだったね。
それに比べて、この作品に続く『スニーカーと一本背負い(斎藤綾子)』が下衆エロくて……(笑)
まあ、そのまま下衆く突っ走るのかと思いきや中々に水戸黄門的爽快さだったよね!
タイトルの「一本背負い」から先が喝采もの!
まさに大どんでん返し。最初こそ「ふうぅん……(--)」だったけど、最終的な読みごたえはかなり良かった。万歳!

次が『ハイヒール(横森里香)』

これはね、「痩せすぎ」なところをもっとストーリーに絡めてこいや! って思う。
そこ?
無理なダイエットで倒れて病院に運ばれるレベル。げっそりとクマができたりと病的な状況なのに、男がそこにまったくツッコミを入れない。おかしい!
男の方は「綺麗になって」で済ましているけど。

それが男のリアルなんだろうか。気付けバカ、気遣えバカと、その時点で「ちょっと待て」の連続になってしまい、肝心のストーリーがどうにも腑に落ちなかった。描きたいものが何かは、とてもわかりやすいんだけど。


形を整えることで、女は中身も整うんだよね。
それは、本当のことだよ。


「人間は中身」というのもある意味「神話」。

中がしっかりしている人間は、外にもきちんとそれが現れているものだから。

じゃ、圭さん失格じゃん?

……え? なんで?
だって休日なんてパジャマからパジャマに着替えるだけで、食事の時間以外はずっと寝てるじゃない。

そろそろ()びるかと思って心配してる。

はぐっ……(汗
と、そんなわけでラスト『空に星が綺麗(狗飼恭子)』。
クズに恋して系。
いやー……清々しくない。

冒頭何が起きたのよ、とびっくりするけど、まさかの展開でいったね。

山崎氏、すごい。やばい。
いやー、ぼくはこれ経験あるし読みながらずっと苦笑いだった。特に「世界一美味しいコーヒー」のくだり。

なんかさ、「俺がいいと思うもの、周囲に受け入れられて当然」って思ってる脳みそお花畑の人ってこの世界に本当に存在するんだよね。

昔はファンタジーの生き物かと思ってたけど、最近になって違うなって思うようになった。

いやいや、それこそがリアルでしょ!(笑)


まあ、この手のものは高確率で相手からドン引きされて終わるんだけど、これの悲劇なところはさ、実際それの何が悪かったのかを本人が永遠に気付かないってことなんだよね。


ここでも出てきちゃうけど、「独りよがり」モードの時ってどうしても他人の意見を聞き入れる余地がないじゃない?

特になんでだか「サプライズ」したがる人って、「相手が喜ばないかも」ってことを一切考えないんだよね。

「喜んで当然」って何ら疑いなく思っててどうしてそこまでポジティブ思考になれるのか、不思議でならない。


そんなこんなで、男と女は永遠の平行線というわけだ。

平行線と言うよりは、ねじれの位置かなってぼくは思うけどな。

どういう意味?

重なるようでいて、ちっとも重ならないってことだよ。

男女はそれぞれの一本線(時間)の上を同じ速度で歩いていて、一番接近した場所にいる時は「愛」という名の磁場で他が見えなくなるけど、そこから時を経て位置が変わった途端、今まで見えなかった相手のアラなんかが見えるし、場合によっちゃそれが許せなくなる。

ええ、そりゃなんか虚しくないか?

人間関係は性別関係なく、ある程度の距離があった方がお互い平和なんじゃない?


ぼくら猫からすると、人間は無駄に相手の領域に入り込んで要らぬ衝突ばかりしているように見えるんだよね。いつもいつも馬鹿だなあ、って、思ってるんだけど……。


……ま、まあそれはともあれさ、この話もラストがよかったね。


クズ彼氏だけど、山崎氏よりはまともだった。
上履きは盗んだけどねえ(笑)
なんだかんだとこの二人は似合いのカップルなんだねってほのぼのしちゃったよ。
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