虐殺ハッピーエンド  原作/宮月新 作画/向浦宏和

文字数 1,849文字

高校生・草壁真琴は、重病の妹の治療費を稼ぐため、バイト漬けの日々を過ごしていた。働かない父親、子供を置いて逃げた母親、バイト先でのイジメ…そんな状況にもめげず、妹を救うべく生きてきた。しかし、無情にも妹の余命が短いと告げられ、絶望した真琴は…命の重さを問う、最凶パニックサスペンス!


(「マンガParkより」より引用)

https://manga-park.com/title/658

『シグナル100』を読んだ直後だけに、これを読むかどうかをかなり逡巡してたみたいだね。
うん。自殺催眠が生まれるきっかけとなった『シグナル100 零』については、感覚的に読むのは危険だと回避したのだけど。

こっちを結局は読んだ理由は、何かあったの?

作品1つで宮月新を「無理!」と判断するのは早いかなと思ったんだ。
そしてその結果は?
これはね、面白かった。『シグナル100』よりもこっちのほうが断然面白いのではないかと思う。
主人公は高校生・草壁真琴。
働かない父親と、自分たちを置いて家を出た母親、重篤な状態で入院中の妹(詩織)という家庭環境の中、妹の病院代を稼ぐために懸命なバイト三昧。
学業がおろそかになるレベルのバイト三昧なんだよね。しかもそのバイト先には恐喝まがいのことをしてくるいやーな先輩もいて、こんな不幸な状態はいくらなんでも辛すぎる……。
そんなわけだから、ある日、とある神社の前で彼は叫んでしまう。
「こんな毎日が続くなら僕と詩織に明日なんか来なければいい!」
……結果、その通りになってしまうんだ。神様ってとても残酷。
叫んだその日には妹のドナーが見つかり、希望の光がともった直後だったから、その残酷さがより濃く滲む。
1日を繰り返している(その度に自分と妹だけが1日歳を重ねている)と気付いてからの主人公の絶望たるや、のありさまだったね。
しかも1日を繰り返すたびに詩織の容態が悪化していくしで、兄としてはどうしていいのかわからない。

そんな時に、ひょんなきっかけから人を殺せば明日に進めることが判明する。

……というわけで、表題に示す通りに虐殺を繰り返しながら詩織がドナー提供を受ける日(ハッピーエンド)を目指す物語が始まるというわけだ。

ここからはもう、虐殺、虐殺、虐殺、の連続だよね。

血なまぐささ、容赦のなさがとにかく半端ない。そして、誰に対しても慈悲がない。

精神的に追い込まれていく主人公の変化、刑事とのスリリングな心理戦も見逃せないポイント。

『シグナル100』が予定調和のように生徒たちが与えられた役割(ロール)をこなして死んでいくのが見え見えなのとは違い、『虐殺ハッピーエンド』はピンチの切り抜け方が予測不能だから面白い。

「そう来たか!」

「えげつないな!」

と、思いながらもついつい読み進めてしまう。

キレイゴトと、そんなことを言っていられる状況ではない現状──読みながら考えてしまう部分も多かった。

そんなこんなでどうしても思ってしまうわけだよね。

ここまで()りきって、果たしてハッピーエンドなんて、あるのかな?

なかったね……。

なかった。

唯一の味方だった弥生を死なせてしまったあたりで、結末にも慈悲がないんじゃないのかなとは思っていたが。
いちおう手術は、成功するんだけどねえ……。
でもあのラストが暗示するのは、要するに、そういうことなんだろ?
きっとね。『シグナル100』も『虐殺ハッピーエンド』もそうだということは、たぶんこの原作者はどんな事情であれ人を救う気はないんだと思う。
……と思ったので、同時期に並行していて読んでいた『償い魔法少女カレンザ』を読む手を、ぼくは止めてしまった。
それは、時期尚早だったかもしれないよ?
そうだとしても、もう気付くことはない。
あーあー。
ところでこの物語、人を殺さずループし続けたとしたらどうなったんだろうね。
詩織がどこかのタイミングで死んで、そこから時が動き始めたのでは。
やはりそうなるのかな。
もちろんそれが予測可能な展開だけど、その苦難を敢えて選ぶことによって開かれる別ルートも、可能性としては否定できないのかも。
イサクの燔祭みたいな?
……イサクの燔祭は結果的に雄羊を代わりの贄に差し出したので、詩織の死を回避するために誰かの命を犠牲にする、という虐殺ルートからは逃げ出せてないんじゃない?
確かにそうか。

まあどちらにしても、神の前で何かを呪った以上はその呪いは最終的には我が身に跳ね返るし、その周辺にもまき散らすということなんだよ。

神社での発言には注意した方がよさそうだね……。
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