境界殺人  小杉健治

文字数 2,173文字

平穏な住宅地。二つの家族。依頼人が起こした事件に不可解なものを感じた……。隣人殺人の裏にあるあまりにも意外な真実ーー土地家屋調査士の西脇ゆう子は、不動産登記や測量のスペシャリストである。横浜の牧橋家から、土地分筆・分割登記の依頼を受けた。だが、隣家との不和のため、境界がなかなか確定しない。やがて、依頼者の敷地と隣家との境界を巡る殺人事件が発生。犯人の動機に違和感を覚えたゆう子は、独自の調査を開始する。二つの家族同士の過去とは? 隣家の不登校生が見ていたものとは? そして事件の背後に隠された驚くべき真相とは!? 傑作長編ミステリー。


(「講談社BOOK倶楽部」より)

https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000205530

境界線も含めて、隣人トラブルってとっても厄介って聞いたことがある。
決してゼロにはならないのが隣人トラブル、とも言えるかも。
それは、厄介だ。
自分はそんなトラブルは抱えたことがない、と思う場合は、本当にトラブルないか、あるいは自分自身がトラブルの元凶になっているか、だから、これもなかなか侮れない。
自分が元凶の場合って、何? 周囲が騒ぐまではいかずとも、我慢しているってこと?
あると思うよ。うちも騒音については我慢している部分があるでしょ?
ああ、最近お隣さんが爆音で音楽流していてちょっと困っているんだよね。
まあ最近でもないんだけど。結婚する以前から夕食入浴後のくつろぎタイムくらいになると、甲高い女性ボーカルの歌声が延々と響いて深夜まで鳴りやまなかったもんだよ。
結婚してしばらくは奥さんの手前か、聞こえなくなったと思ったんだけど……。
子供が生まれて、今度は最幼児向けの音楽が爆音で流れるようになった。
正直、時間を考えてほしいよね、あれ。
ってか、子供に聞かせるにもこの時間から? この音量で? という思いが強くてもやもやしているんだ。
他には?
うちの個人情報を根掘り葉掘り聞きだそうとする高齢のお兄さんがいる。なぜ、知りたいんだろうか。
あれねえ。圭さんのお父さんがしばらく入院していた時に、激しかったよね。
離婚したとでも思ったんじゃないかな? 答えなんて教えてあげないけどさ。
あはははは! まあ、あるよね。騒音のほかにも僻みで嘘の噂を流されたり、とか。
うちでもそれあったけど、今、職場の先輩がそれで裁判沙汰になっている。
それはまた、穏やかじゃないねえ……。
家って難しいよね。特に買ってしまった場合、多くの人は一生に一回の買い物になるわけでしょ? これでトラブルが起こるってなったら堪ったもんじゃない。
それでも起こるのが隣人トラブル。
境界線のトラブルなんて最たるもんだよね。びっくりするような言いがかりをつけてくるお隣さんとか、本当にいるんだから。
この小説のトラブル事案とか、結構リアルかもなあって思いながら読んだ。
で、リアルかもなあ、そうかもなあ、と思いながら読み進めて最後に「違うのか!」になる本作のミステリー。
いやあ……。本当にありそうな隣人トラブルを、見事に逆手に取って構成してあった。
落ち着くところ、結局そこなのね、という感じでね。読みながら気付いた時にはすんごくニヤニヤしちゃった。文章が堅苦しめだけど、読みごたえとしてはなかなかだった。
ぼくは主人公が土地家屋調査士ってところがミソなんだと思ったよ。刑事でもなく、判事でもなく、弁護士でもなく、記者でも探偵でもない。だからこういう構成にできたのかなって。
終盤、当事者としては蚊帳の外感があったね、確かに。だからこそストーリーに対して客観的だった、ともいえる気がする。
ついでに人間関係のいろいろがあったりね。登場人物の関係性にも無駄がなく、でものりしろがある感じもちょうどよかったかな。
……しかしだね。ぼく的には余計かな、が二つあるんだよ。
二つ?
一つは主人公が懸想するところ。
ああ。

あれで確かに、主人公の株がだだ下がる。

あんなにできた夫がいて、何やってんのよって思ってしまった。ストーリーとしては完全に余計だったと思うんだ。どうしてあの設定が必要だったんだろうか?
作者の趣味なのでは?
かもしれない。そして二つ目が、これがかなり大きいんだけど、最後に事件の真相を主人公に対して告白するシーン。

え? 何か余計だった?

正直、秘密は墓場まで持って行け、って気分になってしまったんだ。ミステリーの定石だとそりゃ確かに、ラストで種明かしをするもんだけど。
特に古典的ミステリーはそうだよね。ラストで誰かしらが種明かしを兼ねた総括をしている構成のものが多いと思う。
でも、この作品に対してはその総括がなくても、その前にほぼ正解の推測が並ぶから最後のあの告白はなくても全然いい。疑惑はあるが真実は土の下、くらいの方がぼくは好きだな。まあ、そこまでくると好みの問題も大きいけどね。
まあでもこれ、古典的な仕込みが多い分推測しながら読むのも楽しかったでしょ?
うん。それはある。この小説は「ああでもない」「こうでもない」と予想しながら読むのにちょうどいい作品だった。昨今はストーリーを読ませる作品が多いし主流だし人気だけど、そうなると立ち止まって考える余裕がなくなるからね。
まあ、楽しめたならなにより。
そして隣人トラブルには気を付けよう!(笑)
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