境界殺人 小杉健治
文字数 2,173文字
平穏な住宅地。二つの家族。依頼人が起こした事件に不可解なものを感じた……。隣人殺人の裏にあるあまりにも意外な真実ーー土地家屋調査士の西脇ゆう子は、不動産登記や測量のスペシャリストである。横浜の牧橋家から、土地分筆・分割登記の依頼を受けた。だが、隣家との不和のため、境界がなかなか確定しない。やがて、依頼者の敷地と隣家との境界を巡る殺人事件が発生。犯人の動機に違和感を覚えたゆう子は、独自の調査を開始する。二つの家族同士の過去とは? 隣家の不登校生が見ていたものとは? そして事件の背後に隠された驚くべき真相とは!? 傑作長編ミステリー。
(「講談社BOOK倶楽部」より)
決してゼロにはならないのが隣人トラブル、とも言えるかも。
自分はそんなトラブルは抱えたことがない、と思う場合は、本当にトラブルないか、あるいは自分自身がトラブルの元凶になっているか、だから、これもなかなか侮れない。
あると思うよ。うちも騒音については我慢している部分があるでしょ?
まあ最近でもないんだけど。結婚する以前から夕食入浴後のくつろぎタイムくらいになると、甲高い女性ボーカルの歌声が延々と響いて深夜まで鳴りやまなかったもんだよ。
子供が生まれて、今度は最幼児向けの音楽が爆音で流れるようになった。
ってか、子供に聞かせるにもこの時間から? この音量で? という思いが強くてもやもやしているんだ。
うちの個人情報を根掘り葉掘り聞きだそうとする高齢のお兄さんがいる。なぜ、知りたいんだろうか。
離婚したとでも思ったんじゃないかな? 答えなんて教えてあげないけどさ。
うちでもそれあったけど、今、職場の先輩がそれで裁判沙汰になっている。
家って難しいよね。特に買ってしまった場合、多くの人は一生に一回の買い物になるわけでしょ? これでトラブルが起こるってなったら堪ったもんじゃない。
境界線のトラブルなんて最たるもんだよね。びっくりするような言いがかりをつけてくるお隣さんとか、本当にいるんだから。
で、リアルかもなあ、そうかもなあ、と思いながら読み進めて最後に「違うのか!」になる本作のミステリー。
落ち着くところ、結局そこなのね、という感じでね。読みながら気付いた時にはすんごくニヤニヤしちゃった。文章が堅苦しめだけど、読みごたえとしてはなかなかだった。
終盤、当事者としては蚊帳の外感があったね、確かに。だからこそストーリーに対して客観的だった、ともいえる気がする。
……しかしだね。ぼく的には余計かな、が二つあるんだよ。
一つは主人公が懸想するところ。
あんなにできた夫がいて、何やってんのよって思ってしまった。ストーリーとしては完全に余計だったと思うんだ。どうしてあの設定が必要だったんだろうか?
かもしれない。そして二つ目が、これがかなり大きいんだけど、最後に事件の真相を主人公に対して告白するシーン。
正直、秘密は墓場まで持って行け、って気分になってしまったんだ。ミステリーの定石だとそりゃ確かに、ラストで種明かしをするもんだけど。
でも、この作品に対してはその総括がなくても、その前にほぼ正解の推測が並ぶから最後のあの告白はなくても全然いい。疑惑はあるが真実は土の下、くらいの方がぼくは好きだな。まあ、そこまでくると好みの問題も大きいけどね。
うん。それはある。この小説は「ああでもない」「こうでもない」と予想しながら読むのにちょうどいい作品だった。昨今はストーリーを読ませる作品が多いし主流だし人気だけど、そうなると立ち止まって考える余裕がなくなるからね。
そして隣人トラブルには気を付けよう!(笑)