脱走と追跡のサンバ 筒井康隆
文字数 2,254文字
どんなことがあっても脱走してやる。このいやらしい世界から逃げ出してやる。こんなところに閉じこめられてたまるものか。汚物の墓場の下水管を通り抜けもとの世界からこっちの世界へ入り込んでしまったおれは……。情報による呪縛、時間による束縛、空間による圧迫にあえぐ現代をパロディ化し、境界のゆらぎはじめた現実と虚構の「世界」を疾走する傑作SF長編。
角川HPより引用
……う、うん。
冗長であるのは否めないよね。冒頭のもやっとループ表現で「無理!」と心折れる読者は多いと思う。
はははは。
最近知ったけど、寝落ちって寝ているんじゃなくて気絶しているんだって。
これ読みながら3回も気絶したのかと思うと苦笑しかない。
はっと気づいた時にどこまで読んだかわからずページを何度も行きつ戻りつしてしまったもんなあ……。
猫じゃなくて人間でも難しいよこれ。文章が後半で頓珍漢になってボロボロ壊れていくところは作品の「らしさ」を醸すための演出で、この発想を自分ができるかっていったら絶対にできないんだけど。
そして、それを前提にしてもさ……この奇想天外なノリのまま延々と物語を続けられてしまうとこっちの精神が抉られる。
北杜夫くらいで留めておいてくれないと。読者は一般人なんだから。
「さびしい王様」シリーズの……誰だっけ、チャレンジャー博士だっけ?(絶対違うな、忘れちゃったな)……が、何かすっとんだことを発言した後に「間違いない!」でチャラく(本人的にはきりりっと)締めくくってくれるのとか、安心するもん。
まあ、北杜夫はぼく的にはエッセイを推したい作家なのさ。
デタラメはこの程度で留めておいてくれないと、「面白い」を通り過ぎて宇宙の果てにまで行ってしまうことになる。
つまりはこの本を真面目に読むのは愚かで、飛ばして読むのは傲慢である。
読み終えて、そんな風に思ったってこと。
ちなみに序盤で登場するSF用語の羅列の箇所は、読んだ?
だねえ。
あそこはしつこすぎて斜めに読みたくなるけど、斜めに読むのはもったいないと思うよ。そのくせ、生真面目に読むと馬鹿を見る。
そう、デタラメだから。
デタラメでありながら皮肉がすごいのもこの作品の特徴なんだけどね。
ああ、前に紹介した別役実の『魚づくし』なんかもそうだねえ。デタラメってのは真実を隠しやすいんだと思う。
……って、あ、そうか。
前に金城孝祐の『教授と少女と錬金術師』を読んだ時に「わっかんないなー!」と持ったんだけど、あれからはデタラメによって何を炙りだしたのかがぼくには見えなかったせいなのかも。
ぼくの知的レベルが低すぎたんだね。
圧倒的知識量ではあるよねえ。
五十嵐律人の『法廷遊戯』もそっち系じゃないかな。圧倒されるでしょ?
価値はあるけど、読み手を選ぶよね。
優れた騎手が馬を選ぶのと同じ感じ?
そうそう。主人公が次に何に挑みかかるか、読者はわかっているわけだ。
先がまったく見えない小説ってのは「しんどい」に「不安」が積み重なるわけだけど、ある程度の道筋を示している作品はきちんと読ませてくれるんだよ。
あははは!!!
そして後半は怒涛のすっかちゃめっちゃか大騒ぎ。すごかったよね。ここまで読んだら最後まで読むしかないから、ちゃんと我々は作家の罠にハマったんだ。
そういうことなんじゃない?
探せば別の作品集とかに収められている気もする。それに、電子書籍が出ているみたいだね。
電子書籍で読んだ方がいいかも。
いや、電子書籍で読むべきだ。