天稟  幸田真音

文字数 3,236文字

相場の世界に生き、敗戦の瓦礫の中から日本経済を立て直した男たちがいた!

米問屋から立身した山崎種二は、昭和史と共に激動する株式相場の寵児となる。しかし戦争によって経済は崩壊し……。山種証券創設者の人生を軸に、現代に通底する日本経済の危機を描ききる、著者渾身の歴史経済小説。


(KADOKAWAサイトより引用)

https://www.kadokawa.co.jp/product/321702000646/

山種美術館って、圭さんが気になっているのにまだ足を運べていない美術館、だよね?
愛用しているクーポンの束にいつも入っているから名前は知っているんだけど、いかんせん立地が悪くてさ。
立地?
だって、恵比寿だよ?
ビールが美味しいね。
うん、ビールが美味しいね。……そうじゃなくて(汗
そうじゃなくて?
……皇居より西は、ぼくには敷居が高い。
……皇居より西にある大学に通っていたくせに?

あれは痛恨の失敗だった。

駿河台に通うつもりで思って入学を決めたのに、まさかの和泉に通うことになるとは……。

就職したら横浜勤務だったよね?

あれは晴天の霹靂。横浜の水は驚くほど自分に合わなかった。

まあ、水道の水を飲んで「これは!」って最初は驚いていたもんねえ。

こうも違うものかと驚いた。同じ関東圏だし、そこまで違うとは思わなかった。ちなみに川内(鹿児島)までいくとまるっきり味が違っていた記憶があるよ。

とはいっても幼少期の記憶だし、まだ水道の整備が追いついていない時代のことだから今の水道事情は知らないけどね。当時は海水が混じったような水で、口に含むをかすかに塩辛かったんだよ。

ところ変われば水変わる、だね(笑)

実際ミネラルウォーターも採取地によって違うんだ。いつか飲み比べてみたらいいよ。

普段のぼくは水を買って飲むことはあまりしないんだけど、それでも稀に飲むときはたいてい富士山の天然水でさ。だから神戸のホテルで提供された六甲山のミネラルウオーターを飲んだ時に「かくも異なるか」と驚いたもんだよ。

これ、このまま水の話を続けるの?
おっとしまった。
この作品は戦前戦後を生き抜いた相場師・山崎種二と、証券取引所の復活に奔走した清水浩の物語

どっちが主人公かと言えば山崎種二なんだけど、後半は清水浩の独壇場だったかも。

よく(ちまた)では、日本の(コメ)取引は江戸時代には制度として整っていて世界にさきがける先進性を持っていた、なんて言われているけど、そのあたりのことがふんわりとながらわかる作品だった、ともいえる。
ふんわりなのは山崎種二が東京で商いをしていたせいもある。東京と大阪では毛色が違う取引がされてきたのだげど、大阪の方が簡単な説明に留まってしまうところが残念だ。
そういえば現代の株取引でも東の現物・西の先物というイメージがあるけど、あれって米取引の流れを汲んでいるんだろうか。
いや、ぼくの知識ではなんとも言えない。今じゃ東証も大証も一つになってしまったしな。
あれは、まさかの展開だったよね。

世界で通用する「取引所」となるべく再編が進んだ時期、懐かしいね。今じゃ再編を推し進める気があるんだか、ないんだか。

仕事で携わらなくなってしまったから今がどうなっているのかはよく知らないけれど。

そういえば、その流れで圭さん自身がヒヤリとしたことがあるんでしょ?

2013年に東穀取が解散した時のことかな? あれは、時代の流れを感じてしまったねえ。

東穀取も明治からある取引所なんだね。
時代や歴史があろうが、潰れる時は潰れるんだってことだ。

そんな圭さんの周りでは、近頃になってロールケーキみたいな名前の取引所が浮いては消え、浮いては消えしているみたいだけど……。

ロールケーキ!(笑)

残念ながら詳しいことは語れない。しかし、その件はどうなるのかと静観はしている。

ちなみにその取引所も米取引の流れをつないで今に続いた取引所だよ。

って考えると、日本ってたくさんの取引所があるね?

「証券」が名前に付く取引所だけでも東京、大阪のほか、札幌、名古屋、福岡とあるしね。

東京と言うエリアに絞っても一般に知られていないだけで実はいくつもの取引所が存在している。これだけあると、まあ、国が再編させたい気持ちもわからなくもない。

それが進まない理由って何があるんだろう?
ん? だんだん本筋からずれてきたね? 
おっとっと。
ちなみにこの小説、戦後……というか現代の証券取引のことはみんな知っているだろ、といわんばかりに内容が薄い。どちらかというと戦前の商品と証券の仕組みに詳しく、それがどうして現代に続かなかったのかについての記述が厚い仕立てになっている。

そして絵画を愛でる心は世界共通なのであーる、で締めくくるとな?

そうそう。というわけで、冒頭の山種美術館に戻る。
なんだかんだと、取引所復活の立役者は横山大観ということでいいんだろうか。
いいんじゃない? いいってことにしようよ(笑)
この話さ、いろんなことがいろんなところに繋がって、あの時のこれが今にこう繋がるのか、になるんだよね。
山崎種二がそれだけすごかったということなのかも。
しかし、できすぎている気もする。女学校の設立だって、「女子の秘めたる力を応援したい」って、本当にそんなこと思ったのかなあ……と疑ってしまう。

そのあたりは素直に読んでおきたいけど(笑)

確かに作中、ちょっと忙しいところがあるんだよね。一目ぼれの彼女を射止めて「大切にする」と誓ったにもかかわらず、長男が死んだ責任を妻におしつけボロクソに(なじ)ったりするシーンもあるし。

ああいうシーンに「ほーら男なんて」が滲むんだよなあ。
その点、現代日本においては意識の変わった男性もいれば、旧態依然の男性もいて、でも俯瞰するとジェンダーの問題についてはまだまだ、という気がする。
そういえば、何かのアンケートで「共働きで子供のいる女性」の幸福度がワースト1だったよね。

そうだねえ。ジェンダーの問題についてはそもそも議論を尽くして発展させていく気があるのかさえぼくには疑わしい。

もうね、そろそろ日本が先進国であると自惚れるのはやめたらいいんだ。もはやこの国が先進国であったのは過去の話。

日本は遅れている。性意識も、教育も、本当に遅れている。

日本人が優れているという幻想にしがみつく限り、この国の未来に光はない。

でも、そういのって男性ばかりが悪いの?

いや、かなりの部分で女性にも問題がある。正直ジェンダーの問題がこんなふうなのは、「自分はこのままで回りが変われ」という他人任せの風潮がこの日本にはあるからだ。「男性の意識を変えたいなら女性が変われ」とぼくは思う。「それでも変わらない男なら捨ててもい」とも思っている。

非情に極端で危険な発想をするなら、身体的に産む能力を持ち、社会的に育てる知恵を持ち、同時に生きていくに十分な仕事のできる条件を揃えた女性にとって、男性は必要なものだろうか。種だけもらえれば十分なんじゃなかろうか?

身も蓋もない話になってきた……。

でもね、忘れてほしくないのは、ジェンダーの問題とセックスの問題は別だってこと。そのあたりがごっちゃになっているから、余計にややこしいんだよね。
うひぃ。話を変えようか。この作品を読んでいて、1社こころの株が上がった会社があるんだよ。東京海上。
関東大震災での保険金支払いの一幕だよね。ああいう英断ができるのはやはりすごいなと思う。
今だと、コロナ禍で様々に社会的意義をまっとうしようと奔走している企業がたくさんあるよね。
この苦しい中、本当に大変だろうに……。
考えてみると、日本って驚くほどたくさんの困難、それも外的要因による災厄に晒されてそれでもしぶとく生きてきたんだね。

天災、恐慌、戦争、疫病……。本当にそうだねえ。山崎種二も押し寄せる困難を乗り切ってきた人だし、こういう時に立ち上がる力を持った人はカッコイイと思う。

今の日本人だって、きっと大丈夫だよ! コロナだって、乗り切れる!
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