ミラート年代記1 古の民シリリム  ラルフ・イーザウ/酒寄進一(訳)

文字数 3,283文字

 物語は、父王を伯父ウィンカデルの謀反によって殺され、城から落ちのびた双子の王子エルギルとトウィクスが12歳になったところからはじまる。思慮深いエルギルと冒険好きのトウィクス、正反対の性格のふたりは、やがて自分たちの出自を知り、仲間とともに伯父ウィカンデルの打倒を決意する。

  双子の前に立ちはだかる数々の敵。その敵と戦うため、ふたりは母から受け継いだ古の力「通力」を覚醒させなければならなかった。 はたしてふたりは、性格の相違を乗りこえ、ミラート世界を厳寒の時代から救うことができるのか? 

 共生のファンタジーがはじまる。


(あすなろ書房HPより引用)

http://www.asunaroshobo.co.jp/home/series/mirad/index.html

~♪
ちょっと! どうしてこれを晒すの?!
血液の中のファンタジー素って何?
読んで字のごとくです!
圭さんが、相変わらずでぼくは嬉しいとも。
どういう意味かな?
べーつーにー!
なんだよそれは。本題に入るよ?
これ、『ネシャン・サーガ』という前作があるらしいけど。
読んでないし、読まなくても平気っぽい。

そもそも同じ神が作った世界だけど、世界線が違うみたいだし。

地球に似せて神の子が作った……失敗の世界。
うん。世界観がすごい。

なので、平然と地球という異世界が出てくるのもすごい。

ファンタジー作家は、どのようにその世界を想像(創造)するかがまず最初の一歩だと思うんだよね。
そういうところは、日本の作家より海外の作家の方が深みがあるものを展開していくと思う。
今の日本は「異世界」というとほぼほぼゲームの世界で、どこを見ても大体……同じなんだよね。
蓋を開けてしまえば世界の構造が似ているのは仕方ないとしてもね、そこに「至る」の部分が全然違うと、やはり厚さが変わるよね。
それって、どうしてなんだろう。

日本の作家は意識して西洋風を演出するけど、西洋の作家はそもそもの生まれた母体だから自然と空気が身についているってことなのかな?

あると思うよ。

日本人がどれほど意識しても、西洋風日本ファンタジーにしかならない。中国を舞台にした物語だって、どう頑張っても日本っぽくなるでしょ?

三国志演技がいい例だよね。
日本の三国志は完璧に日本のもの。
というわけで、ファンタジー小説なら基本中の基本ともいえる、その世界設定。
少し脇にそれてもいい?
ん?
まあまあ、そう言わずに。

世界設定でぼくが好きなのは『時の車輪』というファンタジー小説なんだけど、この先これを話題にする日が来るかどうかわからないから、喋っておきたいんだよ。

作者が虹の橋を渡ってしまったせいで、完結目前で中断したファンタジーだよね。

結局、本国では作家を後退して最後の章を書き上げたらしいけど、翻訳版は早川書房が出版しなかったからとんでもなく中途半端なことになってしまった残念な作品。

作者が重い病と闘いながらの執筆だったことは知っていたから、読む側だって彼の命を削った作品であることがわかっていたし、途中で中断するかもしれないことも覚悟の上でそれでも最後まで見届けたんだよ。

でも、やはりあそこで終わってしまうのはショックだった。

今のぼくが「未完」の作品に手を出さないのはそういうこともあってのこと。

未完のまま中断していた作品が時を越えて最近になって完結したのに、もういいやーと手を出さないのもあるみたいだけど?
えー……『創竜伝』のことでしょうか?
他に何が? ここに駄文を書き連ねている割に圭さんはホント講談社に喧嘩売ってるよね?
いつここのアカウントを削除されてしまうかビクビクしてる(汗
まあ、そんときはバジリオと一緒に笑ってあげるよ。

それで、『時の車輪』?

君、言うけど灰猫の物語は『時の車輪』をリスペクトした結果生まれてるんだぞ?
あれ? そうなの?
そうだとも。

そして、この『時の車輪』で好きなのが、世界を織物にたとえているところ。

〈時の車輪〉が回ると歴史が現れる、という世界だね。
現れた歴史の軌跡を「歴史模様」と表現し、人々を糸に見立てる。

強力に歴史を牽引する運命を背負う人を〈歴史の織人〉と呼び、彼らに引き寄せられ、彼らの周囲の模様は大きく形を変える。

そして、ぐるりと歴史は回る。始まりも終わりもない世界。

1つの章が始まるごとに繰り返される冒頭の表現がすっごい良いんだよね。「〈時の車輪〉が回るたびに数々の時代が訪れた……」ってやつ。
そう。

世界の表現が綺麗だな、と、思った。

そういう面白みは、話を戻すと『ミラート年代記』も独特。

具体的には?
シリリムが世界を自分の内面に折りたたんでいる、ってところがくすぐったいほど、良い。
神の子が父を真似して創造した世界が失敗作……ってところじゃなくて?
まあ、そこも面白いんだけどさ。

子供の名は出てくるのに、その父の名は出てこないところもそれっぽいよね、と、思うよ。

そういえば、名前で呼んではいけないんだっけ?
宗教がね。ぼくらが神の名を口にするよりもはるかにあちらの世界の人たちは慎重な気がする。

考えてみると、『ハリー・ポッター』でも「名前を言ってはいけないあの人」という表現をするよね? 神であれ悪魔であれ、あちらの世界は名前に対してかなり敏感なんだなと思ったことがあるよ。

でもそれ、洋の東西を問うかな?

ぼくらだって「本当の名前を知られたらまずい」系多くない?

……あれ? そうか?
ちょっと、しっかしりしてよ。
ひーん……。
まあ、いいからさ。続きをどうぞ。
次いで中身を読み始めて「はめられた」と思ったのが双子の定義。
ファルゴンが「ややっこしい」って憤然としたところでぼくは笑っちゃったよ。
読者からすると冒頭のシーンを覗いてどこにも「ややこしさ」はないんだけど、あの双子とじかに接する人たちにしたらややこしいよね。

『銀英伝』のビッテンフェルトが皇帝の病名を聞いて「いやがらせか」と怒ったシーンと同じものを感じてニヤニヤしてしまった。

しかし作中で、思考派のエルギルと行動派のトウィクス。双子のこの特徴をきちんと描き分けられているかと言ったら……
ややっこしい……
途中でね、まあ、どっちでもいいかって思うようになってしまった。
今は合わせ鏡の心を持っているで済んでいるからいいけど、これから先が心配だよね。

同じ人を好きにならない限り、二人の女性が双子を共有することになるんだよね。

え? そこを心配する?
いや、まあ……。
でもまあ、これから2巻、3巻と冒険が進んでいくわけだろうし、双子の恋の話題は避けては通れなさそうではある。
しかし、2巻目を読む気になるかどうか、そこが問題だ。
え? 面白くなかったってこと?
1巻だけですっきり解決しているからさ、これ。表紙に1ってなかったらそれで終わりかと思うし、あとがき読まないと続きを読みたい衝動にかられない。

それくらい、1巻で満足してしまう。

たしかに、ここで完結と言われても違和感ないかも。
それに怒涛の展開だったから、読み終えてぐったりしてしまったというのもある。

すごく疲れた。

このボリュームでイベント盛りだくさんだったよね。畳みかけるように次から次へと、という感じ。

双子の修行が隙間の移動時間ってのもなんだか可哀想で……。

多く一般的には「修行回」的なのがあって、冒険を一休みして、一つのところに留まってじっくりとレベル上げをするわけだけど、この作品に関しては場当たり的に実践投入だったのがね。

双子も休む暇がなくて大変だったろうけど、読者にとっても一息つくところがどこにもなかった。

しかし、双子の能力はチートだよね。
特定範囲の時間を早送りしたり巻き戻せる能力は完全にズルい。

身近な仲間は死んでも生き返らせてもらえるのは、ズルい。

そのせいで若干、命が軽くなっている気はするー。
そこがねー……。

残念ポイントなんだよね。結局は双子の「通力」があれば全部解決なのかと思ってしまう部分もあってだね。

ん? この流れだと2巻は読まないの?
すぐには読まないけど(ほかにも読みたいものが溜まっているから)、そのうちには読むつもりでは、ある。
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