第85話 個性は環境がつくる
文字数 1,063文字
僕はパソコンのテキストエディタでカチカチ文字を打ち込み、「あー」と唸る。
「オリジナルを突き詰めたい! でも、僕にそんな才能があるとは思えない! あああああ、ダメだぁー!」
「うるさいわねぇ」
佐々山さんから苦情が入る。
部長が口を開く。
「オリジナリティが先天的才能だけでできあがってる、というのはまやかしだぞ」
「え。どういうことですか」
「小学校のときなどにやる、『あなたが思うままに書いてみてください。それがあなたの個性です』みたいな教育は、ある側面からは嘘っぱちということさ」
「そうねぇ。少なくともクリエイティヴィティに関する〈個性〉なら、それはある種の嘘ね」
「佐々山さんまで……。そうなのかな」
「そうよ。だって、個性は環境が作り出すものだもの」
「個性は環境がつくりだす?」
部長が引き継ぐ。
「逆説的だが、だからこそ教育が大切だ、とも言えるな。オリジナリティは後天的要素がほとんどだろう。開花する奴は才能が早く開花するから生まれつきで決まってしまうような気がするだけだ」
そこに佐々山さん。
「あのねぇ、山田くん。ひとは自分が置かれた環境に対処したり順応したりして生きていく。そうやって自分を取り巻く環境に揉まれ、対処して、個性を獲得していく」
示し合わせたかのように、萌木部長の声が僕にかけられる。
「アイデンティティも、環境要因が強いさ。そうじゃなきゃフロイトだってエディプスの三角形考えなかっただろ。生まれて最初の他人は家族だ。言い換えれば最初に教育を施してくれるであろう期待されるのは家族、親やそれに類する者だな。こいつらはあくまで〈自分ではない〉んだ。他人が、環境が、そいつのアイデンティティをつくらせる」
補足すると、と前置きして佐々山さんは言う。
「遊びだって重要。遊びも教育と同じように、学べることだらけだものね。一瞬、無駄に思える遊びだって、そのひとの人格をかたちづくっていく。拭い去ることのできない個性を、ね」
部長と佐々山さんの言葉に、僕は「うっ」とうめき、息が詰まった気分になる。
「いいから書け、山田。個性とかオリジナリティなんて、他人がジャッジするものだ。自分にそれがあるかないかなんて考えるのは、小説ではナンセンスだ。執筆するなかで、出てくるんだ。なぜなら、自分は生きていて、それぞれに個別事情があって、それぞれが違う環境下に心も体もあるのだからな」
「ぐぅの音もでない……」
僕は撃沈した。
〈了〉
「オリジナルを突き詰めたい! でも、僕にそんな才能があるとは思えない! あああああ、ダメだぁー!」
「うるさいわねぇ」
佐々山さんから苦情が入る。
部長が口を開く。
「オリジナリティが先天的才能だけでできあがってる、というのはまやかしだぞ」
「え。どういうことですか」
「小学校のときなどにやる、『あなたが思うままに書いてみてください。それがあなたの個性です』みたいな教育は、ある側面からは嘘っぱちということさ」
「そうねぇ。少なくともクリエイティヴィティに関する〈個性〉なら、それはある種の嘘ね」
「佐々山さんまで……。そうなのかな」
「そうよ。だって、個性は環境が作り出すものだもの」
「個性は環境がつくりだす?」
部長が引き継ぐ。
「逆説的だが、だからこそ教育が大切だ、とも言えるな。オリジナリティは後天的要素がほとんどだろう。開花する奴は才能が早く開花するから生まれつきで決まってしまうような気がするだけだ」
そこに佐々山さん。
「あのねぇ、山田くん。ひとは自分が置かれた環境に対処したり順応したりして生きていく。そうやって自分を取り巻く環境に揉まれ、対処して、個性を獲得していく」
示し合わせたかのように、萌木部長の声が僕にかけられる。
「アイデンティティも、環境要因が強いさ。そうじゃなきゃフロイトだってエディプスの三角形考えなかっただろ。生まれて最初の他人は家族だ。言い換えれば最初に教育を施してくれるであろう期待されるのは家族、親やそれに類する者だな。こいつらはあくまで〈自分ではない〉んだ。他人が、環境が、そいつのアイデンティティをつくらせる」
補足すると、と前置きして佐々山さんは言う。
「遊びだって重要。遊びも教育と同じように、学べることだらけだものね。一瞬、無駄に思える遊びだって、そのひとの人格をかたちづくっていく。拭い去ることのできない個性を、ね」
部長と佐々山さんの言葉に、僕は「うっ」とうめき、息が詰まった気分になる。
「いいから書け、山田。個性とかオリジナリティなんて、他人がジャッジするものだ。自分にそれがあるかないかなんて考えるのは、小説ではナンセンスだ。執筆するなかで、出てくるんだ。なぜなら、自分は生きていて、それぞれに個別事情があって、それぞれが違う環境下に心も体もあるのだからな」
「ぐぅの音もでない……」
僕は撃沈した。
〈了〉