第35話 抜き打ちテスト
文字数 910文字
「おはよーモーニン!」
「お、おはー」
「元気ないゾ、山田きゅん!」
「佐々山さんのクラスでは抜き打ちテストやらなかった? 僕のクラス、抜き打ちテストやって、散々だったんだ、点数……」
「なーる」
「くっ! 佐々山さんの言葉の端々に悪意を感じてしまう!」
「うちのクラスでもあったわよ、抜き打ちテスト。らくしょーだったけどね! だいたい文芸部に入ってるくせに点数悪いとか、そりゃないでしょ!」
「ああ! 『ないでしょ!』って、言い切った! くっそぅ、僕はダメダメだったよぉ」
「くっくっくっ」
「確かに、小説を書こうっていうならば、知識量はあった方がいいに決まってるよね……」
「ある、のが前提で、話は進むと思うわよ。スタート地点に着く前に、知識ないなら脱落がフツーじゃないかしら」
「厳しいなぁ」
「理数系の書く整然とした文章も、文系の書くメロウな文章も、いいわよね」
「ドロップアウトした小説家の文章は?」
「彼らこそは、舐められないように本気で立ち向かって勝利した作家たちでしょうね。ひとによるけど」
「ジャン・ジュネーの人生は凄いしなぁ」
「サルトルに拾ってもらって良かったわよね」
「そういうこと言わない!」
「高卒の中上健次は、初期は大江のエピゴーネンと言われていたけど、故郷を舞台にしてからは、誰をも寄せ付けないオーラを放っていたわね」
「初期の頃の作品から、映画化されていたりして人気、あったみたいだけどね」
「未完になった『異族』、わたし、全部読んだけど、あの作品が続いていたら凄いことになっていたと思う。批判として『異族、の中で路地だけが路地と呼ばれるのはおかしい』っていうのがあって、それのせいか、ちょっと評価が良くない部分もあるけど、名作に違いはないわ」
「『枯木灘』と、そこから始まる三部作に匹敵する日本文学って、少数だと思う」
「風景描写が、妙にエロティックなのよね、中上の作品って」
「純文学、だよね。まさに」
「ドロップアウト組は、そのようにして逆に〈強い〉ので、あまりお手本にしない方がいいわよ。勉強しなさい」
「うぃー」
〈了〉
「お、おはー」
「元気ないゾ、山田きゅん!」
「佐々山さんのクラスでは抜き打ちテストやらなかった? 僕のクラス、抜き打ちテストやって、散々だったんだ、点数……」
「なーる」
「くっ! 佐々山さんの言葉の端々に悪意を感じてしまう!」
「うちのクラスでもあったわよ、抜き打ちテスト。らくしょーだったけどね! だいたい文芸部に入ってるくせに点数悪いとか、そりゃないでしょ!」
「ああ! 『ないでしょ!』って、言い切った! くっそぅ、僕はダメダメだったよぉ」
「くっくっくっ」
「確かに、小説を書こうっていうならば、知識量はあった方がいいに決まってるよね……」
「ある、のが前提で、話は進むと思うわよ。スタート地点に着く前に、知識ないなら脱落がフツーじゃないかしら」
「厳しいなぁ」
「理数系の書く整然とした文章も、文系の書くメロウな文章も、いいわよね」
「ドロップアウトした小説家の文章は?」
「彼らこそは、舐められないように本気で立ち向かって勝利した作家たちでしょうね。ひとによるけど」
「ジャン・ジュネーの人生は凄いしなぁ」
「サルトルに拾ってもらって良かったわよね」
「そういうこと言わない!」
「高卒の中上健次は、初期は大江のエピゴーネンと言われていたけど、故郷を舞台にしてからは、誰をも寄せ付けないオーラを放っていたわね」
「初期の頃の作品から、映画化されていたりして人気、あったみたいだけどね」
「未完になった『異族』、わたし、全部読んだけど、あの作品が続いていたら凄いことになっていたと思う。批判として『異族、の中で路地だけが路地と呼ばれるのはおかしい』っていうのがあって、それのせいか、ちょっと評価が良くない部分もあるけど、名作に違いはないわ」
「『枯木灘』と、そこから始まる三部作に匹敵する日本文学って、少数だと思う」
「風景描写が、妙にエロティックなのよね、中上の作品って」
「純文学、だよね。まさに」
「ドロップアウト組は、そのようにして逆に〈強い〉ので、あまりお手本にしない方がいいわよ。勉強しなさい」
「うぃー」
〈了〉