第104話 恐るべき子供たち【第一話】

文字数 1,250文字

 月天が「うまいラーメン屋があるんだ!」と言うので、おれは学校から四駅先の路地にある家系ラーメン屋に入った。
 引き戸をガラガラ開けると、ボックス席に座ってる女性の頭と、その頭越しに、向かいに座っているうちの文芸部の萌木部長の顔が見えた。
「部長、仏頂面だな、部長だけに」
 と、月天。
 へへへ、と照れている。
「もしかして渾身の駄洒落だったのか、月天?」
「うっせ。面白くて笑いたいのは我慢しなくていいんだぜ、青島」
「話しかけてみようぜ」
 おれは人数を訊く店員のねーちゃんを月天に任せて、萌木部長に、
「部長。デートっすかぁ?」
 と、声をかけた。
 そして後悔した。
 部長の向かい席に座ってる女性がこっちを向いたからだ。
 一瞬にしておれはフリーズする。
 そいつこそは県下怨霊の最上位〈禁色〉こと、杜若水姫だったのだ。
「ひ、ひぃ!」
 のけぞるおれ。
「こんにちわー、〈嗤い合うバトルクリティーク〉のお二人さん?」
 満面の笑みの〈禁色〉。怖すぎる。

 部長は〈禁色〉に、フランクに話しかけている。
「あ? 水姫、青島と月天とは面識があるのか?」
「にゃっはー。ちょっちばかりねー」
〈禁色〉の返しもフランクだ。
 友人関係かもしくはそれ以上の関係があるのか、この二人。

 思考がぐるぐるまわってしまいフリーズしているおれの肩を掴む月天。
「触らなくても祟る神というのがいる。それが〈禁色〉だ、青島」
 硬直が解けたおれは月天に言う。
「部長、大丈夫なのだろうか。あいつは〈ヤバい〉ぞ」

 頷く月天。
 しばし考えた月天は、部長に話しかけた。あえて、フランクに。
「ラーメン屋に一緒に来るような間柄なんすか、部長」
 部長はははは、と薄く笑い、
「この前、一緒にラーメン屋に行くって水姫と約束したから来たんだよ。深い意味はないさ」
「そーすか」
 部長にお辞儀した月天は、おれの肩を組んで、しゃがみ込んで話す。
「部長、あいつが〈禁色〉だってこと、絶対わかってねぇ」
「じゃあ、どーすんだよ、月天。ここで乱闘は」
「青島。それは避けよう。ラーメン屋はラーメンを食うための場所だ。バトルフィールドじゃねぇ」
「了解した」

 と、しゃがみ込んでいるおれたちに店員が、
「お客様? お身体の具合がよろしくないのですか?」
 と、尋ねるので、
「違います。席に案内してください」
 と、おれは言って、誘導されるまま、歩くことにした。
 奥の方のボックス席に通された。
 ここからは部長も〈禁色〉の姿も見えない。


 席に座って、おれたちはおしぼりで手を拭く。
「青島。悪ぃ、あんな奴とエンカウントするなんて、な」
「いや、どっちみちうちの学校の生徒だろ、〈禁色〉も。こういうことも今後もあるさ」
「夏休み初日。部活の時間が短い日を狙って食べに来たってのに、すまねぇ」
「今日は部活は午後からだからな。あとで部長に色々聞いてみよーぜ、月天」
「そうだな」




〈第105話に続く〉
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