第2話 短編小説の自由度

文字数 679文字

「短編小説って奴ぁ、自由度が高いんだか低いんだか、全くわからねぇ」

 月天がいきなりそんなことを言う。

 おれと月天はレコードショップに来ていて、LP盤を漁っていた。

 その店内で、そんなことを言うものだから、噴き出してしまった。

「ノンストップ・ミックスってのは、連作短編集をつくるのに似てんだろ。それに文学史ってのもリミックス作業してるだけじゃねーのかって、最近思ってんだ。オリジナルなんてとうの昔から存在しなくなっててさ」


 おれは月天がLPレコードをディグる手を見ながら返す。

「まさか、月天からボードリヤールの話が聞けるとはね」

「は? ビルボード? まあ、ポップ野郎はビルボードのチャート見てりゃいいっつーな、そういうのはあるな、うん」

 と、そこにレコードショップの店主が来る。
 おれたちはお得意様なのだ。
 店主だって来る。

「昔、J文学って運動もあったね。なにがJ文学だよって思ってた。ビジュアル系じゃないか、ってね。でも、レコードもジャケ買いするし、ハズレじゃなかった時、無性に嬉しいんだよね、ジャケ買い」

 おれは店主のその言葉に腹を抱えて笑う。

「サブカル道だねー、店長も月天も。でもそういうの、悪くない」

 店主もつられるように笑う。

 月天は鼻を鳴らす。


「ま、全部深入りしねぇ方がいい世界だわな、そういうの」
「もう遅いでしょ」


 おれが言う。


「レアなの発見。うぇーい」


 月天はガッツポーズしている。
 ったく、文芸部に顔を出さないでなに油売ってんだろ、おれは。



(了)
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