第83話 飛行機雲
文字数 1,329文字
昼休み。屋上で広げたピクニックシートに座りながら空を見上げる。
「キラキラした学園生活……かぁ。おれももう三年だが、そういうのは送れなかったなぁ」
そこに杜若水姫。
「なーに言ってんの、萌木。〈キンタマキラキラ金曜日〉だよ!」
「おまえ、意味わかって言ってるのか?」
「わ、わかってるわよぉ……」
仲裁に入る斎藤めあ。
「まー、まー、二人とも。そんな険悪ムードでキャンタマの話は良いから、……ね?」
「ああ、そうだな、悪かった。めあは生徒会の業務は上手くいってるのか」
「な! わたしの話はしなくていいよぉ」
いぶかしむおれ。
「諍いごとでもあったのか」
「いいえ、ないけどね。ないけど、萌木に話すことでもないと思うの」
「そうなのか」
「ええ。そうよ」
「ふーん」
また、空を見上げる。
青い空に白い飛行機雲ができていく。
おれは飛行機雲の軌道を眺めている。
めあはあくびをする。
「わたしも、結構忙しいのは事実なんだなぁー、これが」
「生徒会はやっぱり大変なんだろう。ご苦労なことだ」
「一年生の頃から生徒会には入ってるけどね。わたしにとっては、部活みたいなものよ」
「部活みたいなものなのか」
「忙殺されるからね。家に帰ったら勉強しなくちゃ、だし。気楽なのは、こうやってお昼休みに萌木と水姫と三人でお昼ご飯食べてるときくらいかなぁ、今は」
あげていた顔を戻して、めあを見る。
「じゃあ、今度の休みにでも、どこかへでかけるか、めあ?」
「な、な、な、なななっ!」
少し身をそらし、顔を真っ赤にする斎藤めあ。
水姫が、
「それはどういう意味合いだー、萌木」
と、ジト目でおれとめあを見る。
「たまには、学生らしく遊びに行くのも良いだろうな、と思って。自慢じゃないが、おれには友達なんて呼べるのはおまえらくらいしかいないんだ」
めあは下を向きながら、
「そ、そ、そうなんだぁ……。う、う、嬉しいなぁ。でも、でもでもさ、萌木。麻婆飯のひとは」
と挙動不審になりつつ、そこで顔を上げて、ぐいっと近寄り、
「彼女さんじゃないの?」
と、おれに真剣な顔になって言う。
「いや、思い切り違う」
ストレートに否定するおれもどうかと思うが、佐々山に恋愛感情を抱くのはよっぽどの変わり者だろう。
そしておれはそれほどの変わり者ではない。
「全然違うからな」
大事なことなので、二回言ってしまった。
「よかったぁ」
「よかったのか」
「うーん、わかんない」
「しっかりしろよ、生徒会長さん」
「なによー、文芸部部長ぅー」
しばしの沈黙。
「キラキラした学園生活、なぁ。送りたかったなぁ」
なんとなく、リフレインするおれ。
そこに水姫。
「隣の芝は青いってよ、萌木」
「かもな」
三人で笑う。
今日は金曜日。
土曜日は部活があるからダメとして。
日曜日、か。
たまには遊びに行くのもいいだろう。
特にこいつらとならば、きっと楽しい。
おれはまた空を見上げる。
飛行機雲が、ずっと長い尾を引いていた。
〈了〉
「キラキラした学園生活……かぁ。おれももう三年だが、そういうのは送れなかったなぁ」
そこに杜若水姫。
「なーに言ってんの、萌木。〈キンタマキラキラ金曜日〉だよ!」
「おまえ、意味わかって言ってるのか?」
「わ、わかってるわよぉ……」
仲裁に入る斎藤めあ。
「まー、まー、二人とも。そんな険悪ムードでキャンタマの話は良いから、……ね?」
「ああ、そうだな、悪かった。めあは生徒会の業務は上手くいってるのか」
「な! わたしの話はしなくていいよぉ」
いぶかしむおれ。
「諍いごとでもあったのか」
「いいえ、ないけどね。ないけど、萌木に話すことでもないと思うの」
「そうなのか」
「ええ。そうよ」
「ふーん」
また、空を見上げる。
青い空に白い飛行機雲ができていく。
おれは飛行機雲の軌道を眺めている。
めあはあくびをする。
「わたしも、結構忙しいのは事実なんだなぁー、これが」
「生徒会はやっぱり大変なんだろう。ご苦労なことだ」
「一年生の頃から生徒会には入ってるけどね。わたしにとっては、部活みたいなものよ」
「部活みたいなものなのか」
「忙殺されるからね。家に帰ったら勉強しなくちゃ、だし。気楽なのは、こうやってお昼休みに萌木と水姫と三人でお昼ご飯食べてるときくらいかなぁ、今は」
あげていた顔を戻して、めあを見る。
「じゃあ、今度の休みにでも、どこかへでかけるか、めあ?」
「な、な、な、なななっ!」
少し身をそらし、顔を真っ赤にする斎藤めあ。
水姫が、
「それはどういう意味合いだー、萌木」
と、ジト目でおれとめあを見る。
「たまには、学生らしく遊びに行くのも良いだろうな、と思って。自慢じゃないが、おれには友達なんて呼べるのはおまえらくらいしかいないんだ」
めあは下を向きながら、
「そ、そ、そうなんだぁ……。う、う、嬉しいなぁ。でも、でもでもさ、萌木。麻婆飯のひとは」
と挙動不審になりつつ、そこで顔を上げて、ぐいっと近寄り、
「彼女さんじゃないの?」
と、おれに真剣な顔になって言う。
「いや、思い切り違う」
ストレートに否定するおれもどうかと思うが、佐々山に恋愛感情を抱くのはよっぽどの変わり者だろう。
そしておれはそれほどの変わり者ではない。
「全然違うからな」
大事なことなので、二回言ってしまった。
「よかったぁ」
「よかったのか」
「うーん、わかんない」
「しっかりしろよ、生徒会長さん」
「なによー、文芸部部長ぅー」
しばしの沈黙。
「キラキラした学園生活、なぁ。送りたかったなぁ」
なんとなく、リフレインするおれ。
そこに水姫。
「隣の芝は青いってよ、萌木」
「かもな」
三人で笑う。
今日は金曜日。
土曜日は部活があるからダメとして。
日曜日、か。
たまには遊びに行くのもいいだろう。
特にこいつらとならば、きっと楽しい。
おれはまた空を見上げる。
飛行機雲が、ずっと長い尾を引いていた。
〈了〉