第41話 矮小化
文字数 1,618文字
「はぁ」
「どうした山田。ため息なんてついて」
「はぁぁ……」
「ん? 山田だけでなく佐々山までため息をついて。どうしたんだ、一体?」
「萌木部長、ちょっと聞いてよ」
「佐々山がそんな風に言うのも珍しいな。聞こうか」
「ここ、田舎町で、飲食店もほとんどないじゃない。で、やっぱり地元ということで個人経営のお店を利用したいとは、思っているわけ」
「ふむ。昔、地元の店や商店街を出来るだけ使おう、という運動があって、それは『スローライフ』や『スローフード』と名づけられ、特に政治的に左派の人々がその運動に加わった」
「でも、あれも結局、話がこんがらがった挙句に『有機野菜を食べよう』みたいな変な話に矮小化されちゃって、つぶれちゃったわよね」
「違うサイドでも地元で使える商品券を安く買える、みたいな政策をやったな。わけわからなかったが。割引で買える、とか言ってな」
「それはともかく、個人経営のとんかつ屋に入るわけよ」
「おう。偉いじゃないか。個人経営だと、入りづらいところが多いし、高いことも多いんじゃないか。一見さんお断りだったり」
「いや、もういつも、そこの親父が酷いのよ」
「親父とは?」
「店主。毎回毎回飽きもせず、『おれの息子は何々大学に進学し、何々という大企業に就職し、年収が凄い』みたいな話をするの。マウントを取りたいわけ」
「いるよな、そういう奴。よくいる。それが自慢なのだろう」
「一時間くらいずーっと、その『店主の自慢話』を聞かされながらとんかつを食べることになるの。なんで客が店主の自慢話を延々と聞かされて飯を食わなくちゃならないのか。お金払うの、バカらしいわよね」
「まあ、そうだな」
「親父の自尊心は満たされるかもしれないけど、そんな奴ばかりだから町の活性化が起こらない。地元の人口の減少、そりゃ止まらないわよ。じゃあ、その親父の自慢の息子とやらが頭いいなら町をどうにかするか、と言えば、それはないわよね。自慢の息子もその程度の人間なのよ。頭いいなら町を活性化させてみろよって思う」
「いや、おれも、理由があってタクシーなどに乗ると、タクシー運転手の子供の話という名目で、その実、そのおっさんとその子供だという奴の自慢話を、ひたすらされるぞ」
「佐々山さん、部長も。僕らはきっと町の厄介者なんですよ。僕、バイトで草刈りをしに行ったとき、破れても良い服を来て作業してて」
「ああ。作業着ではなく、という意味だな」
「そうです。それでコンビニに買い物に行ったら、土木事務所の自動車から出てきた奴が『なんだその服装。うひゃひゃひゃひゃ』って笑ってるんですよ」
「ああ、いるな、そういう奴」
「バイト先の小屋を解体する作業を、その笑った奴の土木事務所の子会社の人間たちがすることになったんですが、その子会社の奴らも、僕が歩いていたら『見ろよ! あいつ、あいつの父ちゃんそっくりでクソの足しにもならねークズだぞ』って、最初に子会社のボスが言って笑って、そうしたらその場にいるその子分たちが一斉に僕を指さし、笑った」
「……酷い話だな」
「町は衰退しますよ」
「愚痴大会になってしまったが、それが〈田舎のリアル〉だよ、山田。佐々山も。気の毒だが、場所が悪いんじゃなく、そこにある、人々の土着の因襲と悪意が、町を悪くさせる。昔だったら良いが、今は土着の因襲が気味が悪いのを知っているから、逃げる手段がある人々は逃げていくさ。残るのは地元の因襲に最適化された連中と、逃げられない理由がある奴らだけだ」
「部長。僕らは卒業したら、この町に帰ってくること、あるんですかね」
「どうだかな」
「あー、もう、やめっ! この話は終わりにして、部活を始めましょう!」
「そうだね!」
「だな。つまらない話はやめよう。もっと、夢のある話を、おれたちはするべきだ」
〈了〉
「どうした山田。ため息なんてついて」
「はぁぁ……」
「ん? 山田だけでなく佐々山までため息をついて。どうしたんだ、一体?」
「萌木部長、ちょっと聞いてよ」
「佐々山がそんな風に言うのも珍しいな。聞こうか」
「ここ、田舎町で、飲食店もほとんどないじゃない。で、やっぱり地元ということで個人経営のお店を利用したいとは、思っているわけ」
「ふむ。昔、地元の店や商店街を出来るだけ使おう、という運動があって、それは『スローライフ』や『スローフード』と名づけられ、特に政治的に左派の人々がその運動に加わった」
「でも、あれも結局、話がこんがらがった挙句に『有機野菜を食べよう』みたいな変な話に矮小化されちゃって、つぶれちゃったわよね」
「違うサイドでも地元で使える商品券を安く買える、みたいな政策をやったな。わけわからなかったが。割引で買える、とか言ってな」
「それはともかく、個人経営のとんかつ屋に入るわけよ」
「おう。偉いじゃないか。個人経営だと、入りづらいところが多いし、高いことも多いんじゃないか。一見さんお断りだったり」
「いや、もういつも、そこの親父が酷いのよ」
「親父とは?」
「店主。毎回毎回飽きもせず、『おれの息子は何々大学に進学し、何々という大企業に就職し、年収が凄い』みたいな話をするの。マウントを取りたいわけ」
「いるよな、そういう奴。よくいる。それが自慢なのだろう」
「一時間くらいずーっと、その『店主の自慢話』を聞かされながらとんかつを食べることになるの。なんで客が店主の自慢話を延々と聞かされて飯を食わなくちゃならないのか。お金払うの、バカらしいわよね」
「まあ、そうだな」
「親父の自尊心は満たされるかもしれないけど、そんな奴ばかりだから町の活性化が起こらない。地元の人口の減少、そりゃ止まらないわよ。じゃあ、その親父の自慢の息子とやらが頭いいなら町をどうにかするか、と言えば、それはないわよね。自慢の息子もその程度の人間なのよ。頭いいなら町を活性化させてみろよって思う」
「いや、おれも、理由があってタクシーなどに乗ると、タクシー運転手の子供の話という名目で、その実、そのおっさんとその子供だという奴の自慢話を、ひたすらされるぞ」
「佐々山さん、部長も。僕らはきっと町の厄介者なんですよ。僕、バイトで草刈りをしに行ったとき、破れても良い服を来て作業してて」
「ああ。作業着ではなく、という意味だな」
「そうです。それでコンビニに買い物に行ったら、土木事務所の自動車から出てきた奴が『なんだその服装。うひゃひゃひゃひゃ』って笑ってるんですよ」
「ああ、いるな、そういう奴」
「バイト先の小屋を解体する作業を、その笑った奴の土木事務所の子会社の人間たちがすることになったんですが、その子会社の奴らも、僕が歩いていたら『見ろよ! あいつ、あいつの父ちゃんそっくりでクソの足しにもならねークズだぞ』って、最初に子会社のボスが言って笑って、そうしたらその場にいるその子分たちが一斉に僕を指さし、笑った」
「……酷い話だな」
「町は衰退しますよ」
「愚痴大会になってしまったが、それが〈田舎のリアル〉だよ、山田。佐々山も。気の毒だが、場所が悪いんじゃなく、そこにある、人々の土着の因襲と悪意が、町を悪くさせる。昔だったら良いが、今は土着の因襲が気味が悪いのを知っているから、逃げる手段がある人々は逃げていくさ。残るのは地元の因襲に最適化された連中と、逃げられない理由がある奴らだけだ」
「部長。僕らは卒業したら、この町に帰ってくること、あるんですかね」
「どうだかな」
「あー、もう、やめっ! この話は終わりにして、部活を始めましょう!」
「そうだね!」
「だな。つまらない話はやめよう。もっと、夢のある話を、おれたちはするべきだ」
〈了〉