第52話 執筆ソフトはなにを使う?

文字数 1,392文字

「この小説はテキストエディタで書かれてある。具体的に言うと、ビジュアルスタジオコードで書かれているわ」

 緑茶を吹き出しそうになる僕。

「ちょ、ちょっと、メタ的発言は控えてよ、佐々山さん!」

 咳き込んでやっぱり吹き出してしまった。

 放課後の教室に西日が射す。
 
「この前、『一太郎』を、久しぶりに買ったのよ。アニバーサリー記念版が発売されたから」

「アプリケーションソフトって、高いんじゃないの?」

「値は張ったわね。まあ、バージョンアップ版だから、一万円は安くなったけどね。山田くんは、確か……」

「オズエディタ」

「シェアウェアを使ってるんじゃん」

「それで、萌木部長は」

「Macで書くときはiText使ってるわ」

「萌木部長もシェアウェア使ってるんだね」

「月天くんはウィンドウズにバンドルされてるメモ帳を使っているわね」

「青島くんはWordだったよね」

「そうね」

「青島くんが一番オーソドックスなのを使ってるって意外だな」

「社会に出たら書類はExcelにWordにパワポだからね。Wordの基礎を押さえておくのも役立つわ、いろんな場面で」

 さっき吹き出した緑茶を雑巾で拭く。机にかけてしまった。
 佐々山さんは、そんな僕を見て
「まあ、下品ですこと」
 と笑った。

「月天くんがメモ帳を使ってるのも、硬派でいいよね」

「そうねぇ」

「で。いま、わたしはiPadを使っている機会が多いのだけれども、一太郎PadをiPhoneとiPadに入れて、メモ類や原稿のラフをつくってからそれをPCの一太郎でエディットする風になったわ」

「なかなかコアな使い方してるね」

「画像があろうが型崩れしない。アップルとマイクロソフトの壁をぶち破るには、同一ソフトを使うのが一番」

「Office365は?」

「永年ライセンスのOfficeと併存できないのよ、365は。いまはわからないけど」

「文章ひとつ書くにも、ひとそれぞれだなぁ。で、一太郎は使い心地、どう?」

「実はまだ使ってないわ、ほとんど」

「どういうことだい」

「一太郎に付属しているIMEのATOKを入れておいて、それを使いながらビジュアルスタジオコードを使うことが多いわね。一太郎はメモやラフの管理と、それでまとめた文章にしか、まだ使ってないの」

「IMEかぁ。ATOKは伝統があって歴史が長いから、その点では僕も信頼はできる」




 部室の扉を開けて、あくびをしながら萌木部長が入ってきた。
「もう眠る時間だよ」

「それには早すぎない? それとも、疲れる要因でもあったのかしら」
 佐々山さんが吹っかけると部長は、
「生徒会と一戦交えないとならないかもしれなくなった」
 と、ため息をつく。
「あれやこれを忘れたいから、仮眠とってから部活する」
「部長、そういうのを、ふて寝って言うのよ」
「ふて寝に決まりだ。おやすみ」


「……………………」

「……………………」


「斎藤ちゃんのところに、行ってみる必要があるわね」
 佐々山さんが生徒会長の名前を出す。

「斎藤会長かぁ。頑張ってね、二人とも」

「はぁ? 山田くんも連れて生徒会に殴り込みに行くに決まってるじゃないの」




 困ったことになったぞ、と僕は思った。





〈了〉
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