第1話 もう書ける気がしねぇ
文字数 738文字
学校の昼休み。
自分の席で机にぐでーっと伏せて倒れた青島は言った。
「なんか色々書いたなー、小説。もう書ける気がしねぇ」
おれは青島の前の席に後ろ向きに座り、それを笑って聞いている。
青島はぐでーっと伏せたまま焼きそばパンをかじる。
「だいたいさ、『全ては書き尽くされてしまっている』そのあとに、なにをおれは書けばいいっていうんだ」
青島の右手をおれは見る。大きな手だ。そこには鉛筆の黒い粉が、びっしりとついている。おれはそれを見て噴き出す。
「鉛筆でルーズリーフに手書きで小説を書いているのも、もう絶滅種のような気がするよ」
「いや、そんなことはない。それどころかおれはPCで調べ物しながら書いたりしない。参考資料は図書館だし、基本的には自分が知りうる範囲内でどれだけ書けるか試していてだな……」
青島はむくり、と上半身を起こし、語調を強める。
「でもダメだぜ。全国区で戦うどころか、学校のコンクールなんかで賞を獲った経験すら一度もない……ぐぅっ!」
「そう自分を追い詰めるなよ。立ち上がれ」
「おまえ、優しいな……」
青島は目を細めた。
「ま、そうだよな」
頭をボリボリかく。
「おまえはおれがつくったキャラなんだから。これ、おれの独り言なんだろ?」
「ああ、そうさ、青島。おまえに友達はいない。その中でも上手くやっていくんだ。きっとできるさ。これまでがそうだったように」
「ま、んなこと言ってくれると気が休まるさ」
「じゃ、おれはこれで」
「ああ」
そしておれは本の中へと帰っていく。
青島のつくったへんてこな言葉の海の中に。
アナログデータ内の存在。
それはVRでもARでもなくて……。
〈了〉
自分の席で机にぐでーっと伏せて倒れた青島は言った。
「なんか色々書いたなー、小説。もう書ける気がしねぇ」
おれは青島の前の席に後ろ向きに座り、それを笑って聞いている。
青島はぐでーっと伏せたまま焼きそばパンをかじる。
「だいたいさ、『全ては書き尽くされてしまっている』そのあとに、なにをおれは書けばいいっていうんだ」
青島の右手をおれは見る。大きな手だ。そこには鉛筆の黒い粉が、びっしりとついている。おれはそれを見て噴き出す。
「鉛筆でルーズリーフに手書きで小説を書いているのも、もう絶滅種のような気がするよ」
「いや、そんなことはない。それどころかおれはPCで調べ物しながら書いたりしない。参考資料は図書館だし、基本的には自分が知りうる範囲内でどれだけ書けるか試していてだな……」
青島はむくり、と上半身を起こし、語調を強める。
「でもダメだぜ。全国区で戦うどころか、学校のコンクールなんかで賞を獲った経験すら一度もない……ぐぅっ!」
「そう自分を追い詰めるなよ。立ち上がれ」
「おまえ、優しいな……」
青島は目を細めた。
「ま、そうだよな」
頭をボリボリかく。
「おまえはおれがつくったキャラなんだから。これ、おれの独り言なんだろ?」
「ああ、そうさ、青島。おまえに友達はいない。その中でも上手くやっていくんだ。きっとできるさ。これまでがそうだったように」
「ま、んなこと言ってくれると気が休まるさ」
「じゃ、おれはこれで」
「ああ」
そしておれは本の中へと帰っていく。
青島のつくったへんてこな言葉の海の中に。
アナログデータ内の存在。
それはVRでもARでもなくて……。
〈了〉