第99話 女性が書いたBL作品が芥川賞を受賞したことがある。

文字数 841文字

「うーん。サブジャンルってあるじゃん、佐々山さん」

「あるわねぇ」

「いわゆる『ジャンル小説』って呼ばれるのがあって、そのジャンルでカテゴリエラーを起こすことがあるって話、よく聞くよね」

「そうねぇ。ジャンル小説。サイエンスフィクション、ミステリー、伝奇、歴史・時代小説、異世界ファンタジーに現代ファンタジー。ボーイズラブに百合小説……。もちろん、掛け合わせるのも常套手段ね。でも、カテゴライズが自分では出来ない場合っていうのもよくあることね」

「そうなんだよなぁ」

「またどうしてそんなことを。悩んでいるのかしら」

「ジャンル小説って、どうもわからないんだよなぁ」

「難しく考えることもないわ」

「そうなの?」

「実は芥川賞で、女性が書いた男性同士の恋愛小説が受賞したことがある!」

「純文学の権威ある賞に、実はボーイズラブが選ばれたことがあるってことかい?」

「その通り」

「藤野千夜の1999年の小説『夏の約束』がそれよ。第122回(1999年下期)芥川賞受賞作。『群像』(講談社)1999年12月号に掲載されたものなの」

「ネタバレは避けるとして、印象的な場面でも、聴きたいな」



「冒頭部が印象的ね。主人公の男性が、自分が勤めている会社のトイレの個室に入る。するとそこには落書きがあって。自分の名前に続いて〈~のホモ! 死ね〉みたいな文章が書いてあるの。で、その主人公は実際、同性愛者なんだけど、怒りが湧くかというと、なぜか個室で自分のことが書かれたその落書きを見ながら落ち着いている自分のこころを発見する」

「ヘヴィーだね」

「小説の内容としては夏に約束をしたメンツがみんな揃うのかどうか、っていう疑問を抱きながら、日常を生きる人物たちの群像劇になってたはず。ベケットの『ゴドーを待ちながら』の影響を受けているのかもしれないわね」


「なるほどなぁ。要は〈書き方〉や〈切り口〉の問題なのかもね」

「そうね…………」





〈了〉
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