第54話 生徒会長
文字数 1,494文字
僕は部室でしかめっ面をした。
相手は佐々山さんだ。
だって、生徒会に殴り込みに行く、なんて言うから。
「部長の話だと、生徒会と文芸部は仲が悪いっていうけど、なにも殴り込みに行かなくても……。ていうか、それ、なにかの比喩表現でしょ? 殴らないよね?」
「え? 殴るに決まってるじゃない。生徒会長の斎藤ちゃんを殴るのよ?」
「物騒なことはやめてよ、佐々山さん」
「は?」
「んん?」
「殴るのは山田くんの役目だけど? それがなにか?」
「殴る? 僕が? 斎藤めあ会長を?」
すこし声が大きくなってきていたからか、部室の外から、
「スターップ!」
と、よく通る声優みたいな可愛げな女性の声がよく響いた。
僕らが振り返ると、部室のドアの磨りガラスに、大きなシルエット。
それから、引き戸式の部室のドアを開ける、そのシルエットの主はこう言った。
「殴るって、わたしを殴る算段かしら、文芸部員!」
言って廊下から開けたドアを通過して部室に入って来ようとする、その人物は、生徒総会で目にすることがある、斎藤めあ会長だ。
ガゴッッッ!!!!!!
「ぐはぅ!」
会長は思いきり開けた部室のドアのあるその上部の壁に頭をぶつけた。
「痛ぁぁぁああああああああぁぁぁ! ぶつけた! なによ、そこの二人! 笑っちゃって! そうよね、わたしは背が高いわよ! 悪かったわねッ!」
「え? いや、僕も佐々山さんも笑ってないし、なにも言ってないよ」
「同情はいらないわ! これだから嫌なのよ、文芸部なんて嫌い、大嫌いっ! ううぅぅ…………」
少し背をかがめて、ドアを抜け、部室に入ってくるこの女性こそが、残念なことに、生徒会長の斎藤めあさんなのである。
非常に残念だ。
めあ会長は、萌木部長と同じクラス。三年生である。
「佐々山さん、僕らが生徒会室に行く前に会長さん、来ちゃったよ!」
「斎藤ちゃん、どうしたのかしら。……ねぇ、どうしたの、斎藤ちゃん?」
「はっ、はうぅぅぅ……」
さっきぶつけた頭を抱えるめあ会長。大丈夫か? 僕はちょっと心配になった。
でも、即座に気を取り直したのか、あ、あー、と発声を確認してから、会長は言った。
「スターップ! もう一度始めから行きます。わたしのタクトをよく見て」
人差し指を立てるめあ会長。
やれやれ、と佐々山さんは言う。
「斎藤ちゃん。最初からやり直さなくていいから。もうあんたに威厳なんてないから!」
「がっびーーーーーん!」
口をあんぐりと開けてその場で硬直する、めあ会長。
表情のころころ変わるひとだ。
と、そこに。
「こんなところでなにやってるんだ、めあ?」
入り口から入ってきたのは、萌木部長だ。
振り返って萌木部長を見た斎藤めあ会長は、
「は、はわわわ、あううぅぅぅーーーーー」
と、うめき、顔を真っ赤にする。
それから、
「萌木のバカあああぁぁぁぁ!」
と叫んで、ダッシュで部室を出て行った。
出て行く際、萌木部長を突き飛ばしたので、萌木部長は少しよろけた。
体勢を立て直した部長は、
「あいつはいつもああだ。めあの奴がなにを考えてるか、全く見当もつかない」
と、肩をすくめた。
佐々山さんは言う。
「バカばっかり」
まあ、佐々山さんが言うのも、一理あるかもな、と思う僕だった。
生徒会長・斎藤めあ、つまり生徒会とのファーストコンタクトは、こうして唐突に始まり、唐突に終わったのである。
〈了〉
相手は佐々山さんだ。
だって、生徒会に殴り込みに行く、なんて言うから。
「部長の話だと、生徒会と文芸部は仲が悪いっていうけど、なにも殴り込みに行かなくても……。ていうか、それ、なにかの比喩表現でしょ? 殴らないよね?」
「え? 殴るに決まってるじゃない。生徒会長の斎藤ちゃんを殴るのよ?」
「物騒なことはやめてよ、佐々山さん」
「は?」
「んん?」
「殴るのは山田くんの役目だけど? それがなにか?」
「殴る? 僕が? 斎藤めあ会長を?」
すこし声が大きくなってきていたからか、部室の外から、
「スターップ!」
と、よく通る声優みたいな可愛げな女性の声がよく響いた。
僕らが振り返ると、部室のドアの磨りガラスに、大きなシルエット。
それから、引き戸式の部室のドアを開ける、そのシルエットの主はこう言った。
「殴るって、わたしを殴る算段かしら、文芸部員!」
言って廊下から開けたドアを通過して部室に入って来ようとする、その人物は、生徒総会で目にすることがある、斎藤めあ会長だ。
ガゴッッッ!!!!!!
「ぐはぅ!」
会長は思いきり開けた部室のドアのあるその上部の壁に頭をぶつけた。
「痛ぁぁぁああああああああぁぁぁ! ぶつけた! なによ、そこの二人! 笑っちゃって! そうよね、わたしは背が高いわよ! 悪かったわねッ!」
「え? いや、僕も佐々山さんも笑ってないし、なにも言ってないよ」
「同情はいらないわ! これだから嫌なのよ、文芸部なんて嫌い、大嫌いっ! ううぅぅ…………」
少し背をかがめて、ドアを抜け、部室に入ってくるこの女性こそが、残念なことに、生徒会長の斎藤めあさんなのである。
非常に残念だ。
めあ会長は、萌木部長と同じクラス。三年生である。
「佐々山さん、僕らが生徒会室に行く前に会長さん、来ちゃったよ!」
「斎藤ちゃん、どうしたのかしら。……ねぇ、どうしたの、斎藤ちゃん?」
「はっ、はうぅぅぅ……」
さっきぶつけた頭を抱えるめあ会長。大丈夫か? 僕はちょっと心配になった。
でも、即座に気を取り直したのか、あ、あー、と発声を確認してから、会長は言った。
「スターップ! もう一度始めから行きます。わたしのタクトをよく見て」
人差し指を立てるめあ会長。
やれやれ、と佐々山さんは言う。
「斎藤ちゃん。最初からやり直さなくていいから。もうあんたに威厳なんてないから!」
「がっびーーーーーん!」
口をあんぐりと開けてその場で硬直する、めあ会長。
表情のころころ変わるひとだ。
と、そこに。
「こんなところでなにやってるんだ、めあ?」
入り口から入ってきたのは、萌木部長だ。
振り返って萌木部長を見た斎藤めあ会長は、
「は、はわわわ、あううぅぅぅーーーーー」
と、うめき、顔を真っ赤にする。
それから、
「萌木のバカあああぁぁぁぁ!」
と叫んで、ダッシュで部室を出て行った。
出て行く際、萌木部長を突き飛ばしたので、萌木部長は少しよろけた。
体勢を立て直した部長は、
「あいつはいつもああだ。めあの奴がなにを考えてるか、全く見当もつかない」
と、肩をすくめた。
佐々山さんは言う。
「バカばっかり」
まあ、佐々山さんが言うのも、一理あるかもな、と思う僕だった。
生徒会長・斎藤めあ、つまり生徒会とのファーストコンタクトは、こうして唐突に始まり、唐突に終わったのである。
〈了〉