第3話 自己言及小説を書く

文字数 749文字

 一年の青島と月天がレコードショップに行くので部活を休むというので、僕は「ああ、そう」とだけ言って、彼らを見送って、部室に行く。
 今日は文芸部でだらだらしよう。



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「『小説を書いてることについての小説』ばかり書いてるな、おまえは」

 夕方の部室。萌木部長と僕は、今日もくだらない会話をしながら、小説を書く。

「なにを考えてるんだか、春樹」

 部長がため息を吐く。

「萌木部長。下の名前で呼ぶなっつってんでしょ。文芸部で名前が春樹だなんて、自分でも恥ずかしいんだからさ」

「ふぅ……。毎日同じようなやりとりをしているような気がするよ。おまえとは。なぁ、春樹……じゃなかった、山田。おまえ、半年部活やって、全然実力が伸びてないのが自分だけだっての、恥ずかしくないか」

「いや、大器晩成だから」

「全く、これっぽっちも、成長してないよ、おまえ」

「マジでか」

「ああ。進歩してない」

「でも、書いてはいるじゃん、小説」

「読者はおれ一人だ」

「そりゃ辛い」

「他人事のように言うな。心配してやってるんだぞ」

「も……萌木部長……ッ!」

「えーい、そのうるうるした目をやめろ」

「なんでさ」

「なんでもだ」

「ちぇっ」

「佐々山にBL小説ばかり貸してもらって読んでるからそんなことになるんだ」
「うわー。差別発言ー。佐々山さんに言っちゃおーっと」

「……はぁ。あほ言ってないで、今日も書くぞ」

「へいへい」


 なんかそんないつも同じようなことがループする、この日常が、今は恋しくて恋しくてたまらないのだ。

 こういう、山もオチも、意味すらない日常が。


〈了〉
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