第11話 努力は僕を裏切る?

文字数 1,464文字

「『努力はひとを裏切らない』っていうけど、ほかのひとはともかく『努力は僕を裏切る』から、僕は努力なんて大嫌いだな」

「山田先輩、面白いひととだったんすね。要するに努力したくないんでしょ」

「ちょっと、青島くん。山田くんはこれでも本気で言ってるわよ?」

「佐々山先輩……、マジすか?」

「マジマジ」


 僕はこのやりとりの不毛さにため息を出してしまった。
 今日は珍しく、部活に一年生の青島くんが来ている。
 部室には僕、佐々山さん、青島くんの三人。いつものようにお茶を飲みながらぐだぐだしているのであった。



「佐々山さんまで僕をからかうんだから……。まいっちゃうよな。それはそうと青島くん。部活に顔を出すなんて珍しいね」

「そうですか?」

「ああ。そう思うけど。ここんとこ顔見せなかったし。いつも一緒の不良くんは?」

「いや、月天は部活に関係ないですし」

「ふーん。連れてきてもいいんだけどな」

「え? なに? 青島くんが彼氏を連れてくるって!?」

「こら、やめろ、佐々山さん」

「ちぇっ。からかっただけですよー」

「腐女子って怖いですね」


 青島くんが笑う。

「いや、佐々山さんがたまたま怖いだけだよ」

 僕が応える。

「こらー! 山田ー! わたしに謝れー!」

 青島くんはなんともない風に、会話を続ける。


「ところで山田先輩。努力は僕を裏切る、っていうの、個人的な事情に還元する感じがとても文学っぽいですね」

「文学……、うーん、そういえば、そうかもなぁ。この場合、『努力はひとを裏切らない』ってのは一般論としての『ひと』だし、社会一般を論じているのかもしれないけど、僕の場合の適用は、本当に個人的な雑感が他人と異なっているってわけで」


 佐々山さんがそこで鼻を鳴らす。ふふん、って感じで。


「『本格』と『社会派』はいつも競い合うものなのよ。社会的な通説と個人的な私小説だって対立するわ」

「ああ、佐々山さんはミステリ畑のひとだったね。……話を戻すと、文学だって時流を掴むのが良しとされている。その中で、時流の内部にいる個人の葛藤を描くことになる。だから社会と不可分なんだ。その意味では、どんな文学も社会に向けて書いてて、社会を抜きにした『個人』なんてあり得ない」


 青島くんが指を鳴らす。


「ああ、わかった! つまり『ロック』なんだ! ロッケンロー!」

「青島くん。ロックって言葉を使うといきなりダサくなるのはなんでなんだろうね。でも、言いたいことはわかる。ロックの持つ反骨精神や天邪鬼な気持ち、そんなロックな見方で社会に対して構えるのが、文学が描く『個人』だもんね」



「そうよ! ボーイズラブは文学!」


「ああ、もう、佐々山さんは黙ってて。今日はキャラ崩壊してるよね。……うーん、でもジャン・ジュネはすごく文学だけど」

 青島くんは腕組みしながら首を捻っていたが、ここまで会話が進むと、
「あー! なるほどね!」
 と唸った。

「僕らのこの会話、コントみたいなものなんだ!」
 佐々山さんはつかさず、
「メタ発言は控えるように」
 と青島くんを注意した。

 それからみんなで吹き出した。

 しばらくすると部長の萌木センパイがやってきて、
「さ、今日も部活をはじめるか」
 と言って、今日書く作文の三題噺の言葉を発表する。



 三題噺で小説書いてるなんて、結局僕は努力をしているのかも。
 楽しけりゃそれでもいいか。



〈了〉
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