第4話 孤独をものともしないひと

文字数 939文字

「根を詰めてたんだな、萌木部長。ぐっすり眠って、いつもは誰にも見せない無防備な寝顔、晒してる」

「あら? 山田くんは男性の寝顔に興味あるの?」

「やめてくれよ、佐々山さん。女性からそういうこと言われると、冗談っぽく聞こえない」

「じゃあさ、山田くん。萌木部長の寝顔だから興味あった?」

 夕方の部室。

 文芸部では全員がWebコンクールに作品を投稿し終え、ほっとしたところなのだ。
 それで、部長はほっとしたまま、部室で寝ている。
 あたたかい空気。まだ春だ。
 今、部室にいるのは萌木部長と二年生の僕と、同じく二年の佐々山いづきさん。
 部長は三年生。佐々山さんは紅一点だ。


「部長の寝顔には、興味、あったな。僕は。いつも孤独で張り詰めた糸みたいな緊張感を持ったひとだから。無防備なのは珍しい」


 佐々山さんはうふふ、と肩を上下に揺らす。


「孤独じゃないわよー。萌木部長には山田くんがいるじゃない。カップリングとして」
「あー、もう。だからそういうのは。……でもさ、孤独なのは小説書いてるひとみんなじゃないかな。それは佐々山さんだって同じでしょ」

「うーん、わたし? わたしはわかんないな。その感覚。友達なんていないでここまでずっとやってきたから」

「僕は……友達じゃない?」

「友達……ってのとは違うわね。言葉の、自分なりの定義上では」

「ったく部長も佐々山さんも、孤独をものともしないひとっつーか……」


 そこでむくり、と突っ伏した机から上半身を起こす萌木部長。目覚めたようだ。


「スーパーの買い出しにみんなで行こう。今日はセール日だ。部室の珈琲やお茶を買う」

「うふふ。わかったわ。二人についていく。行きましょ」

 僕は唸る。


「やっぱり孤独ではない、……のかな。みんな」


 萌木部長は立ち上がって背伸びをする。

「耐えきれるよ、小説書きをやってる人間は孤独に。みんな、ね。タフじゃなきゃすぐにこんなのやめるよ。それに、ひとはみんなひとりであるって知った上での連帯。それが、例えばこのスーパーの買い出しだったりする。こんな連帯があればいいんだよ」

「そこに着地するんですね」


 僕はため息を吐いた。


〈了〉
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