第26話 この修羅道
文字数 1,278文字
「『自分の武器』があれば、それを使うと思うんですよ、部長」
「まあ、そうだな。得意分野を活かすことは必須とも言えるな。逆に、得意なものがないと、小説を書くのは難しいかもしれない」
「僕にはなにもない」
「僕にはなにもない、という『欠落感』を小説にする、というのもまた文学だぞ、山田」
「この欠落感を、小説というかたちにするのか……。でも、ベタじゃないですか」
「ベタだからこそ、共感を呼ぶこともある。奇人がおかしいこと言って人気が出ても、共感を得るのとは違うことが多い。奇人なはずなのに共感出来るところがある、という場合は、かなり強い作品になるけどな」
「でも、僕は『感動大作』みたいなのは嫌いなんですよね。特にそういう宣伝を打ってるのが嫌だ」
「大丈夫だぞ、山田。おれが小説を書きたいっていう奴らを見てきて『こんな話、感動できると思うんだよね』とか言って書こうとする奴は決まってコケる。何様のつもりだよ、というのと、そんなこと言う奴の大半は小説を書いたことがない奴だからな」
「部長……」
「『おれはひとを感動させることが出来る』とか言ってる奴はのーみそが狂っている。なにかしらのドグマにハマっている可能性もあるな」
「実体験ぽいな、ちょっと怖くなってきた」
「書物ってたくさんあるが、その中で小説を好んで読む人間は少数である、ということを、書く奴はもっと知った方がいい」
「読むひと少ないけど、執筆の花形が小説だから、小説の『発行部数』は多くて宣伝をするけど、基本的には一部の売れてる作家だけが儲かっていて、あとは死屍累々の世界なのを、忘れちゃダメですよね」
「その現実を踏まえた上で、書いていく道を選び取ってしまったのだから、業の深い奴らだ。この修羅道を歩んでいくことは、貶されることはあっても、褒められることはまず、ないからな」
「ですよね」
「文豪の奇行を集めた本が売れることが十年に一回はあるのだが、また最近書かれて売れているらしい。文豪なんてサイコパスの資質を持っているか、そうなってしまうか、さ。執筆を続ければ、なんとなくわかるだろ」
「わかりますね。あと、執筆人口多そうだけど、続けていくひと少ないから、『村社会』ですよね、小説の世界」
「さっきから愚痴を言っているだけのような気もするが、それでも、〈書きたいという欲求〉があるんだろ」
「はい」
「書き続けていられるだけで、それは立派な、ひとつの〈才能〉だよ。気にするな。最初の話に戻るが、『自分の武器』なんて、自分じゃわからないものさ」
「そうですか」
「ああ。あと、少数のひとに聞いてもそれが正しいかは不明だし、多くに聞いても、嫉妬やらバカにするやらで、本当のことは言わないことが多いだろう。気づけるとしたら、それは運が良かっただけで、運はコントロール出来ないからこそ、運と呼ぶんだぞ」
「つまり、気づかないまま、書き進めろ、と」
「ぐだぐだ言うより、書くことが大切だな。だって、小説書きなんだろ? ならば、小説を、書け」
〈了〉
「まあ、そうだな。得意分野を活かすことは必須とも言えるな。逆に、得意なものがないと、小説を書くのは難しいかもしれない」
「僕にはなにもない」
「僕にはなにもない、という『欠落感』を小説にする、というのもまた文学だぞ、山田」
「この欠落感を、小説というかたちにするのか……。でも、ベタじゃないですか」
「ベタだからこそ、共感を呼ぶこともある。奇人がおかしいこと言って人気が出ても、共感を得るのとは違うことが多い。奇人なはずなのに共感出来るところがある、という場合は、かなり強い作品になるけどな」
「でも、僕は『感動大作』みたいなのは嫌いなんですよね。特にそういう宣伝を打ってるのが嫌だ」
「大丈夫だぞ、山田。おれが小説を書きたいっていう奴らを見てきて『こんな話、感動できると思うんだよね』とか言って書こうとする奴は決まってコケる。何様のつもりだよ、というのと、そんなこと言う奴の大半は小説を書いたことがない奴だからな」
「部長……」
「『おれはひとを感動させることが出来る』とか言ってる奴はのーみそが狂っている。なにかしらのドグマにハマっている可能性もあるな」
「実体験ぽいな、ちょっと怖くなってきた」
「書物ってたくさんあるが、その中で小説を好んで読む人間は少数である、ということを、書く奴はもっと知った方がいい」
「読むひと少ないけど、執筆の花形が小説だから、小説の『発行部数』は多くて宣伝をするけど、基本的には一部の売れてる作家だけが儲かっていて、あとは死屍累々の世界なのを、忘れちゃダメですよね」
「その現実を踏まえた上で、書いていく道を選び取ってしまったのだから、業の深い奴らだ。この修羅道を歩んでいくことは、貶されることはあっても、褒められることはまず、ないからな」
「ですよね」
「文豪の奇行を集めた本が売れることが十年に一回はあるのだが、また最近書かれて売れているらしい。文豪なんてサイコパスの資質を持っているか、そうなってしまうか、さ。執筆を続ければ、なんとなくわかるだろ」
「わかりますね。あと、執筆人口多そうだけど、続けていくひと少ないから、『村社会』ですよね、小説の世界」
「さっきから愚痴を言っているだけのような気もするが、それでも、〈書きたいという欲求〉があるんだろ」
「はい」
「書き続けていられるだけで、それは立派な、ひとつの〈才能〉だよ。気にするな。最初の話に戻るが、『自分の武器』なんて、自分じゃわからないものさ」
「そうですか」
「ああ。あと、少数のひとに聞いてもそれが正しいかは不明だし、多くに聞いても、嫉妬やらバカにするやらで、本当のことは言わないことが多いだろう。気づけるとしたら、それは運が良かっただけで、運はコントロール出来ないからこそ、運と呼ぶんだぞ」
「つまり、気づかないまま、書き進めろ、と」
「ぐだぐだ言うより、書くことが大切だな。だって、小説書きなんだろ? ならば、小説を、書け」
〈了〉