第103話 視野狭窄

文字数 1,093文字

「うぅ、自分が書いてるジャンルがどのジャンルにカテゴライズされるか、さっぱりわからないや!」

 僕は自分の机を手で叩いた。
 部室。朝練も過ぎる時間帯である。

 萌木部長はそんな僕にため息をひとつ。
「昨日もそんなことを言っていたな、山田。カテゴリエラーを起こしたら通る原稿も通らなくなる。確かにその悩みは重要だろう」

「ですよね!」
 と、僕。

「だが、山田。自分で自分をカテゴライズして縛り付けるのが、いつも良いとは限らないぞ。自由度を自分から狭めている結果となる。自縄自縛ってやつになって、執筆が楽しくなくなる奴も多いだろう。縛り付けるのが肌に合うなら良いけどな。だが自分の中にあるイメージでジャンルを限定してしまうことで、新しいこと、突飛なことが出来なくなったら、それは大きなマイナスだ」

「ふぅむ」

「それに、なにかのジャンルに特化して経験値を積んで、〈書くのが速くなった〉ときも注意だ。たくさん書いていると考えるより身体が動く、筆が動く状態になっていくけれども、それは〈ルーチンワーク〉に〈順応〉してるだけだ。手癖で書いているのと変わらなくなってくるから、新しい試みは突飛な試みを自ら封じてしまいがちだ。無意識でやっていると新たな〈なにか〉を見いだすことは困難だ。意識化にあげて、心構えを忘れずに、初心の初期衝動を忘れないようにしなくちゃならないな」

「うーむ。一言でお願いします、部長!」



「視野狭窄に陥るな。ジャンルがなんだよ。賞が欲しい、人気が欲しいのはわかるが、そんな理由でジャンルを考えて、カテゴリを語るな。ジャンル小説はどこも好き者の世界だ、というのを忘れるな」

「え? 一言でお願いします」

「視野狭窄になってるぞ、山田。それだけだ」

「ぬぅ」




 部長はそこまで言ってから話を区切り、カモミールティーを飲む。
「今日は一学期の終業式だ。遅れないように、な」

「あー。みんな先に体育館に行っちゃったもんな。僕も遅れないように体育館へ行かなきゃ。……明日から、夏休みですね、部長」



「夏休みも、いつも通りの自分でいるだけさ。受験勉強もするけどな」

「ですよねー」

 受験、か。
 遠いようで、僕も高校二年生だから、そろそろ進路を考えなきゃならないんだよね。


 僕は終業式で全学年の生徒が集合してる体育館へ向かう。

 部長は体育館とは違う方向へ向かって歩いて行く。
 教室に忘れ物かなにかかな。

 部長を詮索するのはやめて、僕は早足で歩く。


 明日から、夏休み。
 文芸に身を捧げる夏休みだ。




〈了〉
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