第105話 恐るべき子供たち【第二話】

文字数 823文字

 ラーメン屋で月天とおれは、案内されたボックス席に座る。
  おれはおしぼりで手を拭いてお冷やを飲む。


 月天は言った。
「結局のところ、自分のことは自分で守るしかねぇ」
 コップをテーブルに置いたおれは、
「〈禁色〉が部長を連れてこの同じ店の店内にいると思うと気が気じゃないぜ。月天の言いたいことはわかるが」

「想定不能なことが起こった場合、自分の持っている経験や知識が役立つ可能性は高いし、もしものときのために、備えておく必要があるよな」

「とはいえ、自分とその知識との接点がなにかしらないと、なかなかひとは物を覚えるのは難しいぞ、月天」

「自分が住む社会、仕事、趣味なんかの領域の〈政治的なもの〉に対して常に〈アンテナ〉を張っておくことは重要だとは思わないか、青島」

「自分がその〈小さな社会〉で、なにをしないといけないか、それを見極めて動くのは自己実現に必要不可欠だって話か?」

「まあ、そういうことだ。生き方に多様性ってのを考えると、各々に対しての〈簡単・単純な説明〉すらしきれないだろ、特に他人には。そうすると自ずと自分で調べていかなきゃならなくなる。さもなきゃ、生存すら危うくなる」

「生存すら危うくなっていく、か」

「青島。自分の専門のことはいつもチェックしとかなきゃならない世の中だぜ」

「正面切って言われると、そうだなぁ。おれは不勉強で、アンテナを張っているとは言えねぇなぁ」

「浮世はどうしたってユートピアにはならねーから。つかみ取るには、自分の手で、なんだよな」



「ユートピア……。ユートピアか」

 月天の話から、おれはユートピア論のことを考え出す。

 テーブルに、ラーメンが運ばれてきた。
 おれと月天は、にんにくをたっぷりかけてから、割り箸を割った。

「いただきます」

 部長たちもラーメン食ってる頃だな、と不意におれは思う。

「ユートピア論、か」




〈第106話に続く〉
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