第16話 〈見られてる系〉の作家

文字数 1,186文字

「ぐーぐー」

「あ、また部長、部室で眠ってるよ」

「そうね」

「で、佐々山さんは部長を眠らせておいて、パソコンで小説書き?」

「文芸部ですもの」



「僕が来たら部長が寝てて、その横に佐々山さんがいて、小説を書いてたわけだけど。すこし服装が乱れててさ、……部長が眠るようなこと……二人でしてたの?」

「なーにが服装が乱れてて、よ! このスケベ! くそ暑いから汗を拭いながら作業してたのよ! ほんとデリカシーがない! それにそんなことしないわよ、このえろげ脳!」


「ああ、うん。わかってた」


「えろげ脳ってことがね!」



「違うよ! そこじゃねーですよ? ……ところで佐々山さん。ドストエフスキーがずっと当局の監視下に置かれながら執筆していた話だけどさ」
「いきなり話が飛ぶわね!」





「ソルジェニーツィンやブルガーコフも監視下に置かれてたみたいだね」

「なに? 山田くんって〈見られてる系〉のひとだったの?」

「なんだよ、その見られてる系って……」

「フィリップ・K・ディック」

「訊くまでもなかったな」

「ディック。悪夢機械をつくる天才ではあったけど、その悪夢に苛まれながら生き、だからこそ『書く』という手段をとるしかなかったひと」

「確かに〈見られてる系〉な妄想のひとだったらしいね、ディックは。今生きてたらこの情報化社会で作家、やっていけてたかな……」

「インターネットなき時代につくられた映画『ブレードランナー』は、後にネット社会を予見したサイバーパンクの始祖のひとつ。その原作者だったディック。シミュラークルの話に読めるわよね。ディックは生きてたらすごいギークになるかインターネットに接続しないで済む生活をしてたか……。うーん、どうかしらね」



「ブレードランナーの完成、自分では見れなかったんだよね」

「そういうの、どこの国にもあるわよね。山田くんのキーワード『監視』にしたって、今の日本にも通じるところ、あるわね。いや、世界中がそれを望んでこんな社会になってきているのだろうけど」

「オーウェル流行るほどだもんね」

「って、蹴り!」

「うげらぼわ!」

「やっぱり起きてたわね!」

「な……、部長、いきなり佐々山さんに蹴られて叫んで汗びっしょりで。やっぱり〈監視〉してましたね」

「……いや、二人が良いムードなので起きるタイミングが掴めなくてだな」



「コロス!」



「はは……冗談だよささや……ぐえェェっ」





 佐々山さんに首を絞められる部長はどこか嬉しそうなように、僕には思えた。
 それにしても暑い。今年こそは、部費でクーラー買ってくれないのかな。うちの生徒会は文芸部を目の敵にしてるからなー、と思ったけど、それはまた別の話。



 さ、僕も小説を書こう。



〈了〉
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