第14話 共通体験
文字数 1,213文字
ゲームセンターで格闘ゲームをしていると、おれのところに月天がやってきた。
「おー、青島じゃん。おまえ、格ゲーなんてすんのか。ん? ん? ぎゃはは! 負けてやんの」
「おまえが話しかけるから負けたんだよ!」
「怒るなよ。缶ジュースおごるからさ」
月天に自販機でジュースをおごってもらってから、おれは月天に連れられて休憩スペースの椅子に座る。向かい側に月天が座って、炭酸飲料水を飲んでる。
「文学一筋ってわけじゃ、ないんだな」
月天が軽い口調でおれに言う。
「小説だけ読んで小説を書く奴がいたら、それこそそいつのところに押しかけて話を聞きたいよ。普通は、いろんなものに触れて書かなくちゃダメだ」
「そうなのか?」
「うん」
「ふーん。学問の道は険しいな」
「文学は『学』ってついてるけど、最初は『楽』って文字を使いたかったらしい。『音楽』と一緒でね。だけど、『文楽』が既に存在してたから、同じじゃダメだってことで、『文学』って字をあてたんだ」
「ほー」
「ゲームやってるのはさぁ。面白いからやってるんだけど、これは『みんなの共通体験』と呼べるものだから、プレイしておくと、なにかと役に立つんじゃないかな」
「共通体験?」
「ゲームやまんが、アニメ、そういうのなしじゃ創作が出来ないくらい、影響力はあるよ。だって、月天だって毎週、週刊漫画雑誌をクラスで読み回ししてるじゃん」
「そうだな。あと、ライトノベルなんかもそうか?」
「ちょっと違うかも知れない。ラノベは徹底的にラノベ文脈があると、おれは思っている。まんがはまんがでも、少しニッチでマニアックな奴もミックスしている。ゲームにしたって、影響関係だと、コンシューマじゃない奴の影響が強いだろうし。月天が読むのとは違う世界だろうなぁ」
「ん? ていうかガチ文学ともゲームが関係あるっていう風に聞こえるけど」
「越境する文学ってのが、あるんだよ、突然変異的に。進化論のようにして。それに、文学の醍醐味は雑食性と同時代性だぜ。『同時代ゲーム』とはよく言ったものさ。みんなゲームに夢中なら、文学にゲーム的な世界観や登場人物設定が入り込む余地がある」
「閉鎖的に見えて、開かれてるんだなぁ、文学の世界って。封建制度みたいな世界かと思ってたぜ」
「結局はひとがつくりしもの、だからな。ゲーム好きが多い時代にはゲームっぽくなるだろうっていう、自然な話だよ」
「そうなのか?」
「でもそれだってもう、十年以上前の議論になる。下手すると『政治の季節』が戻ってくることだってあるだろう」
「そうならないのを祈るばかりだぜ。ゲームやまんがで笑顔になってる世界が一番だからな」
おれも缶ジュースのプルタブを開ける。
「ハッピーエンドは、おれも見たい。絶対的な、ハッピーエンドを。いや、ハッピーネバーエンドを、かな」
〈了〉
「おー、青島じゃん。おまえ、格ゲーなんてすんのか。ん? ん? ぎゃはは! 負けてやんの」
「おまえが話しかけるから負けたんだよ!」
「怒るなよ。缶ジュースおごるからさ」
月天に自販機でジュースをおごってもらってから、おれは月天に連れられて休憩スペースの椅子に座る。向かい側に月天が座って、炭酸飲料水を飲んでる。
「文学一筋ってわけじゃ、ないんだな」
月天が軽い口調でおれに言う。
「小説だけ読んで小説を書く奴がいたら、それこそそいつのところに押しかけて話を聞きたいよ。普通は、いろんなものに触れて書かなくちゃダメだ」
「そうなのか?」
「うん」
「ふーん。学問の道は険しいな」
「文学は『学』ってついてるけど、最初は『楽』って文字を使いたかったらしい。『音楽』と一緒でね。だけど、『文楽』が既に存在してたから、同じじゃダメだってことで、『文学』って字をあてたんだ」
「ほー」
「ゲームやってるのはさぁ。面白いからやってるんだけど、これは『みんなの共通体験』と呼べるものだから、プレイしておくと、なにかと役に立つんじゃないかな」
「共通体験?」
「ゲームやまんが、アニメ、そういうのなしじゃ創作が出来ないくらい、影響力はあるよ。だって、月天だって毎週、週刊漫画雑誌をクラスで読み回ししてるじゃん」
「そうだな。あと、ライトノベルなんかもそうか?」
「ちょっと違うかも知れない。ラノベは徹底的にラノベ文脈があると、おれは思っている。まんがはまんがでも、少しニッチでマニアックな奴もミックスしている。ゲームにしたって、影響関係だと、コンシューマじゃない奴の影響が強いだろうし。月天が読むのとは違う世界だろうなぁ」
「ん? ていうかガチ文学ともゲームが関係あるっていう風に聞こえるけど」
「越境する文学ってのが、あるんだよ、突然変異的に。進化論のようにして。それに、文学の醍醐味は雑食性と同時代性だぜ。『同時代ゲーム』とはよく言ったものさ。みんなゲームに夢中なら、文学にゲーム的な世界観や登場人物設定が入り込む余地がある」
「閉鎖的に見えて、開かれてるんだなぁ、文学の世界って。封建制度みたいな世界かと思ってたぜ」
「結局はひとがつくりしもの、だからな。ゲーム好きが多い時代にはゲームっぽくなるだろうっていう、自然な話だよ」
「そうなのか?」
「でもそれだってもう、十年以上前の議論になる。下手すると『政治の季節』が戻ってくることだってあるだろう」
「そうならないのを祈るばかりだぜ。ゲームやまんがで笑顔になってる世界が一番だからな」
おれも缶ジュースのプルタブを開ける。
「ハッピーエンドは、おれも見たい。絶対的な、ハッピーエンドを。いや、ハッピーネバーエンドを、かな」
〈了〉