第42話 情熱の抜け殻

文字数 742文字

 僕は情熱の抜け殻になってしまったのかもしれない。
 なにも書けなくなってしばらく経つ。
 人々は僕に石を投げつけてくるかのようで、悪意を持った言葉を僕にぶつけてくる。
 学校の教室は、よどんだ空気が支配していて、その瘴気にあてられると、途端に緊張で発汗する。
 笑い声。
 嘲笑だ。
 文章すら書けなくなった僕に、救いはない。


 部長は、……萌木部長は、こう言う。

「小説に救いを求めるのはやめろ。つらくなるぞ」

 その通りだった。
 今の僕は空虚で、その空虚の中に、他人の悪意が入り込んで、僕のこころの吹き溜まりに沈殿し、蓄積していく。



「疲れた」


 夕暮れの帰り道、僕はひとりで呟く。
 隣を歩いているひとなんて、誰もいない。

 いつだって僕はひとりだ。
 この空虚は、どうやったら満たされるというのだろうか。

 ただ、疲れた。
 それだけだ。
 休もう。眠ろう。そうすれば、忘れられる。

「忘れられる? なにを? なにを忘れられるっていうんだ?」

 死ぬその瞬間まで〈次の時間〉は無情にも訪れる。
 この世に慈悲なんて、ない。
 いや、〈僕には〉、ない。

 教室で笑う、頭のおかしい連中の嘲笑。

 僕は抜け殻だ。
 僕は情熱の抜け殻なんだ。

 この感情は、詩にすらならずに消えていく。
 贅沢な悩み?
 そうかもしれない。
 でも、このくらいの贅沢はさせてくれ。
 僕に、未来なんて、ない。

 続いていくこの道の先には、きっとなにもない。
 死が訪れるのを待って生きていくだけ。
 絶望ではないんだ。
 いや。
 まだ僕はなにかを願っている。
 生きていく方法を、練っている。
 僕はきっと、まだ生きることに、すがっているんだ。



〈了〉
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